銀→青(短)
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「翼、今まで髪いじくったことねぇのか?」
すると翼は何やら哀感を漂わせ、頭を上下に動かす。
『見回りで見たことはありましたが……お恥ずかしい話、触れたこともなくて。
それでも申し出たのは、やれるかもと自負したことと……その、触れてみたくて……』
徐々に顔色を染めていく翼。仕舞いには手をもじもじとさせ、『すみません』と目を伏せてしまった。
「……」
そんな翼を見て、燐は何も言わない。こんな時にこそ何かの言葉掛けをしてやるものだが、反対に燐は行動に移す。
ガタッ
『! 燐さん?』
「ちょ、そのまま!」
目を伏せていた翼に、燐は背後から近寄り髪を触る。当然翼は驚くわけだが、燐の言う通り大人しくしていると、不思議なことに段々と涼しくなってきた。
『燐さん? なんだか……』
その真相を尋ねようと開口した瞬間、燐から「出来た!」の声。更に「しえみ、鏡!」と、何やら要求しているようだ。
『あの……』
「ほれ! 翼の髪留めたバージョンだ!!」
『!』
振り向こうとすると、目の前を自分が通る。その正体は鏡で、覗けばいつもよりスッキリした自分が写っている。
「どうだ翼!? 初めて髪いじった感想は!」
『……』
「翼?」
返って来ない答えに、燐は首を傾げた。すると、鏡から顔を離した翼が先程よりも染まった頬で、更に、満面の笑みで、
『あ、りがとうございます、燐さんっ』
とお礼を言う。
「……っ」
その眩しさを直接目に入れた燐が今度は固まってしまう。だが、翼はいかんせん初めての髪留めが嬉しかったため、固まる燐の横で子どものように、そしていつの間にかしえみを交えてはしゃぐのだった。
「わ、私のも、つけてみてください!」
『え、燐さんがやってくれないと……。
ね、燐さんっ』
「……」
燐が本当に不器用なのは、
その大きな温かい手じゃなくて――――
「燐って自分のは出来ないのに、人のは出来るんだね!」
『あれ? 確かに……』
「……」