銀→青(短)
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それは塾が始まる10分前のこと。
いつも一番前の席に座る塾生・奥村燐は、ある問題と格闘していた。
「あ〜! 髪が上手くまとまらねぇ!!」
そう。いつの日かに勝呂からもらった髪留め、なのだが、その髪留めの扱いが極端に難しいのか、はたまた、燐がただたんに不器用なだけなのか……。
それは分からないが、塾が始まる前は必ず、燐とその髪留めの戦いが勃発するのだ。しかし救世主というものはどこへでもいるもので、その時は勝呂が必ず留めてあげていた。
だが、その勝呂も今日はいない。なんでも、それこれの用事で遅れる、とのことだった。
当然、このことは燐にとって致命傷になる。更には隣にいるしえみも今はにーちゃんに奇妙な技を教えているようで、燐には気付いていない。
もう諦めようか
燐は苦渋の決断をしようと、
そう。本当にそうしようと心に決めた時……
『私でよければ、やりましょうか?』
次の授業担当者である翼が、その役をかって出たのだった。もちろん、燐は尻尾を振る勢いで頼み込む。
「ありがとなー、翼!」
『いえ。では、ジッとしていてください』
「はーい」と手を挙げ、欝陶しい前髪との別れを喜ぶ燐。しかし……
グサッ
「い!?」
『あ、すみません! 大丈夫ですか!?』
「あ、あぁ……たいしたことね、ねーよ」
髪留めは見事、燐の額にぶっ刺さってしまったのだ。燐は笑顔でいるものの、その目頭には涙が溜まっている。相当無理をしているのは、一目瞭然だ。
『本当にすみません。今度こそ……』
翼は燐の負担を減らすため、何とか留めようとする。だが、空回りとはこのことで、頑張れば頑張るほど獲物は燐に向かって行った。
「いてっ!」
「わぉぅ!?」
「ギィ×△○〜〜ッ!!」
それから翼が髪留めを手放すまで、そう時間はかからなかった。
カタンッ
『すみません、燐さん……よく考えたら私、この類いの物を扱ったことがないんでした』
顔のあちこちに蚊に刺されたような痕が広がっている燐。手を振って”大丈夫”を示す。
だが、ふと、先程の翼の言葉を思い出した。