PP×戯言

□六章
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ガサガサと鳴るビニール袋を持つ美佳の前を、小学生の女の子二人が横切った。高い声で笑い合うその姿は、見ていればこちらまで心がほっこりしてくるというもの。しかし――

「早見和音ねぇ……」

比較するとますます良く分かる和音の異例さ。美佳の眉間に、再び皺が寄る。

「大体、執行官は受付まで出てこられないはず。それをあの子は……。それに、関わるなって彼女面のつもり?私が関わらない方が良いなら、自分だってそうでしょ」

このようにブツブツ不満を言う美佳だが、この時ふと、ある人物のことを思い出した。

「そう言えば、他の人にもそんな感じのことを言われた気がする……あぁ、思い出した。あの影の薄そうなコだ。碌なことならないって言ってたけど……知り合いなのかしら」

二人の人物から、零崎人識には関わるなと言われた。一人は見ず知らずの青年から、一人は執行官から。しかしその話は、根も葉もない発言に過ぎない。信じるまでもなく、美佳は忠告を無視するつもりでいる。

「大体、人と関わって危なくなるってどんなのよ。零崎くんはそりゃ見た目こそあれだけど、良い子だわ。それに――いや、笑っちゃうわね、世界はこんなに平和なのに」

あたりを見回すと、美佳と同じように買い物をしている者、子供を連れて家路についている者、残業なしのサラリーマンだっている。その光景はどこからどう見ても、平和そのものだ。
美佳はその光景に笑顔を向け、家まで近道をするため細い路地へ入る。そこは周りが高い塀で固められているだけあって、夕方でなく朝や昼でも真っ暗である。もちろん、夜に近い夕方の今であれば真っ暗である。
しかし、美佳はその暗闇を億しない。なぜなら、その路地を毎日通っているからだ。どの場所に何があり、どのように避ければ回避できるかまでを把握している。

だから今日も、日々と代わりなくこの路地を通るのだ。

「平和平和……あ、やば。レシピばかり見てたらもう充電切れちゃいそうだよ。ちょっと小走りしようかな」

家まで後少しだが、携帯の電源が切れるとどこか不安になるもの。特に、常日頃から携帯を肌身離さず持っていた美佳は余計にそう感じる。そのため小走りするのだが、この細い路地に珍しく人がいる。本当に、珍しく。

「あ、すみません」

下ばかり見て走っていた美佳は、同じ路地にいた人物に軽くぶつかる。まさかここに人がいるとは思わなかったため驚くが、自分の不注意だ。すぐに謝罪する。

しかし――


「ギャハ」


「え――」


ザシュ、とも言わなかった。
ダスン、とも鳴らなかった。
ボトン、とも聞こえなかった。
それでも……

「――」

身体から離れた¨¨口¨¨は、それから先、一言も口を開くことはなかったのであった。


プルルル、プルルル……


ピー


只今、電話に出ることが出来ません。ピーと言う発信音の後に、お名前とご用件をお話しください

ピー

あ、もしもし美佳?
聞いてよー!今日の合コン全然ダメでさぁ、メンツ集めなにしてんだ、って感じ!!
今日暇?っていうか、あんたのことなら、今頃私のために材料集めしてくれてんじゃないの?あっりがたーい!あと20分ほどで行くから、鍵開けてまっ、

ピー

電池切れ
速やかに充電してください

電池切れ
速やかに充電してください

電池切れ
速やかに――――


その時刻からおよそ30分後。
美佳と同じように買い物袋を下げた女性、志穂がその場で声にならない叫び声をあげる。そして、その連絡を受けた一係のベルが、けたたましく鳴り響くのだった。
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