PP×戯言

□五章
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それは、丁度半年前のこと。
一系には見慣れない顔があった。
しかしその顔こそ、今自分がいる場所を見慣れなくて、大分戸惑っていた。

『ここは、どこ……私……あ、おのおじさんと会って、それで……寝ちゃって……?』

嬢ちゃんの時間をくれなんて、どこぞのデートの誘い文句を聞いたところで意識を飛ばしてしまったことを思い出す。ついでに、そう言えば銃も向けられたと思い出し、ここはもしかするとと勘を働かせる。

『公安局……』

すると――

「正解だぜ、お嬢さん」

『わ!驚いた……あれ、その声……おじさんと一緒にいた……?』

「いい記憶力だな。その他身体能力も良ければ銃の扱いも良し、か
――どうだ、ギノ。少なくともとっつぁんは入れる気満々だぜ」

ギノ――
どこに、と見渡せば¨¨嬢ちゃん¨¨の後ろに立っていた。それはもう、ただ静かに。しかし口を開けば最後、¨¨ギノ¨¨はよく喋った。嬢ちゃんにとって良いことも、悪いことも。

「記憶だけでは何とも言えない。それに、俺は刑事の勘とやらを信じない。
まだ幼い。こんな子をお前らと同じ犬として働かせるのか。俺はその方が理解できない」

『いぬ……?』

「俺という監視官の下、お前が会った所謂おじさんやこの男は執行官として動いている。犬のようにな。しかし、動けるだけまだマシだ。ずっと更生施設にいたってどうせ何も変わらないのだからな」

『でも、私は……』

「……お前はまだ幼い。幼いが故に、ここは酷なのだ。それならばまだ、更生施設にいた方が良い。だがあまり数値をあげると、消されるぞ」

『!』

ドクン、と胸がものすごい力で押された。何かに。では、

何に?

『私は何も、何もしてない……ただ、生きてるだけ。たった一人で、ただ生きてるだけ……』

「……親は」

『お父さんもお母さんも死んじゃって一人。でも私、さみしいなんて言わなかった……言え、なかった……。
でも、施設の人みんな優しくて、大好き……だから、私、一人でも平気なの』

その時、ギノは口を開く。話をしてやろう、と。

『話?』

「一家に潜在犯が生まれ、その後潜在犯の家族として生きてきた者の話しだ」

『!』

ギノが何を言わんとしているか、勘の良い和音には分かってしまう。自分で気づくよりも先に、涙が流れた。

『私、私がいるだけで施設の人、困るの……?』

「……」

ギノは何も言わない。
だが――

『皆……お兄さんみたいな、悲しい顔になるの?』

「!?」

『今の私も、お兄さんを悲しませてるの……っ?』

うわあぁと泣きじゃくる少女。いつの間にかギノの隣に来ていた男はその肩を軽く叩き、「やり過ぎだ」と忠告する。ギノはあぁ、と弱々しく返事をするものの、目を大きく開けて長い間少女を見ていた。

『う、ぅ〜っ、ごめ、ごめんなさ、い、ぅぅ』

「……」

『わたし、私が、うぅ〜あ、みん、みんなを、っうぅ』

「……っ」

長い間見ていた。しかし――


「もういい!」


大声をあげながらガバっと音がするくらい勢い良く、ギノは少女を抱きしめる。驚愕からか、少女の涙は止まっていた。そして、そんな少女の耳に入ってきた言葉。それは、

「すまなかった」

『……ぇ?』

「そんなつもりじゃ、なかったんだ」

『……っ』

「すまない」

『〜っ』

自分では抱えきれないその背中につい手を伸ばしてしまうほど、小さく弱々しい声だった。


――しかし、そのすぐ後のことである。

自分自身のことが分からなくなり、自由気ままに生かしておいてくれない社会に怒りを覚え、パニックになったのは。


『あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああ!!』


「医療班!こちら一系監視官宜野座!至急3-58室まで一人来てくれ!緊急だ!!」


「おい、嬢ちゃん落ち着け!!くそ!全く使えやしねぇこのドミネーター!おい!ギノも手伝え!!」


これが、三人の歴史。
それは今から丁度、半年前のことなのであった。
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