PP×戯言

□三章
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『常守監視官は、生理現象である呼吸をどうやってしていますか?』

「へ?こ、呼吸……ですか?」

『そうです』

「ふ、普通に息を吸って吐いて、吸って吐いて、ですが……」

『監視官、私は別に腹式呼吸だとか胸式呼吸だとかエラ呼吸だとか、そんなことは聞いてないんですよ』

「へ?エラ、ですか?」

『……いや、何でもないです。取り敢えず、監視官の呼吸は吸って吐いてなんですね』

「私の、と言うよりは世間一般の呼吸方法がそうじゃないかと……」

『……』

「へ?あ!いや!す、すみません」

『いや、いいですよ。ちょっと前の私も、監視官と同じでしたから』

「へ?」

『……』

何も知らない
無知なガキでしたよ

思わず口に出してしまいそうになる言葉はそのまま飲み込んで、目の前の海を冷たい眼差しで見る。
人口的な光ではあるがキラキラと綺麗に照らされ、海は輝く。輝いている。その景色は、少なくとも10歳の少女を魅了した。

『……すごい』

その言葉に朱も口に手を当てて答える。

「ほんと、スゴイ……」

朱の言葉が果たして和音に届いているのかは分からないが、和音は海の反射を受けて目を輝かせる。
あぁ、そうか外にはこんな世界もあるのか
と自分を幽閉しているシビュラシステムを恨むのではなく、ただ単にその光景の尊さに胸を突かれた。

綺麗だ
素晴らしい
自分だけでは勿体無い
誰かに
誰かに見せてあげたい

ここで少女は、今まで向けた事のない目を朱に向ける。

『監視官、私はこの光景を忘れません。ずっと、ずっと覚えておきます』

「早見さん……」

『忘れたくない、絶対に』

そして再び、少女は海へと目を向ける。その小さいながらも凛々しい少女の姿に、朱は自身を正される。自分も忘れるなよ、と。

「私も、覚えておきます」

『……』

「この光景は、忘れられない」

『……はい』

和音が緩やかに微笑んで、朱に返事をする。しかし、和音が足元の¨¨何か¨¨に気づいたのも丁度同じタイミングだった。

『あれ?』

足に何か当たったと思い、下を見る。するとそこには、楕円形だがキラキラと光る貝殻があった。時々ぬめり気があるのは、きっと海藻がついているからだろう。和音はその貝を数度撫で、目を閉じる。
ずっとずっと前だが、いつか聞いた事がある。貝殻に耳を当てれば、波の音が聞こえるのだと。

『……』

本当なのだろうか
波の音は、久方ぶりだ

そう思い、貝を耳へ当て用とした、その瞬間――


「早見さん!!!」

『?』

朱を見れば、先ほどと同じく口に手を当てた状態で喋っている。いや、最早叫んでいると言った方が良いだろうか。しかも瞳孔は開いてしまい、その目線の先にいる和音をまるで同じ人間ではないという眼差しで見ている。その尋常ではない彼女の様子に、わけが分からない、と少女は小首をかしげる。すると朱は今度こそ、紛れもない異端者を見る目で少女を見るのだった。

「¨¨それ¨¨、を、どうするつもりなんですか早見さん!!早見さんが持っているのは、早見さんが持っているそれは…………


今回の被害者の生首ですよ!」


『――え?』

その時、少女は下を見る。
そこに映っていたのは、穴と言う穴から血を吹き出し死んでいる、紛れもない、人間の生首なのであった。
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