PP×戯言

□二章
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執行官は護送車で運ばれ、現場に到着する。降りるとそこには既に監視官が揃っており、先ほど宜野座が言っていた新人監視官も隣に並んでいた。

「本日付けで配属となりました、常守朱です。よろしくお願いします!」

『……よろしくです』

執行官の全員が朱を見てはいるが何も言わない。いくら自分たちの上司になる人がこんな小娘だからってその態度はないんじゃないの、とフォローしているつもりなのか、自分と朱のどちらが小娘か気づいていないのかは分からないが、和音は素っ気なく一言だけ挨拶をする。

和音を初めて見た時、朱は大層驚いた表情をした。未だ10歳という年齢で執行官を務めているのだから当然の反応と言えばそれまでだが、和音は気に食わない。

『常守監視官』

「は、はい!なんでしょうか」

『私だって、好きでここへいるわけではないんですよ』

「え?」

『私がここにいるの、不思議そうな顔で見てましたから』

ニヤリと意味深な笑顔を作り、新人に意地悪なことを言う和音。当然朱は即座に謝った。

「す、すみません! その、」

『……』

「す、すみません……」

『ぷっ』

完璧に萎縮してしまった朱を見て、和音はついつい噴き出す。和音は初々しさと素直なところが面白いと思っただけなのだが狡噛にはその先が見えているのか、「お気に入りはやめておけ」と釘を刺される。

『そんなんじゃないですよ』

「どうだかな。それより監視官、こっちに来てくれ。ドミネーターの説明をする」

「は、はい!」

『……』

パタパタと走り去るその姿を見て、和音は思う。
あそこでコミッサちゃんに会わなければ……いや、征陸と狡噛に会わなければ自分も今頃あのように就職なるものをしているのか
、と。

しかし、今は仕事の時間。宜野座によってチーム編成がされたところで、和音もドミネーターを持って廃墟とも言われる街の一角へ足を踏み入れる。
ちなみに、和音は監視官である常盛と同じチームに振り分けられたため、命令を受けるのは宜野座よりも常守の方が優先的となる。と言っても判断力も統率力もない初めての勤務では、そう言ったセオリーも通用しないのだろうが。

『ハウンドfive、探索開始しまーす』

端末に向かって喋ると、ジジッという音と共に「だから」とどこか不満そうな声が聞こえた。声の主は、征陸だ。

―「嬢ちゃん、探索する時はまず自分がどこにいるかを言えと言ってるだろう?何かあった時どうするんだ」

和音が思うに、征陸はさぞ良いお父さんになるに違いない。いや、色々な面を考えれば現実的に不可能ではあるが。

『了解でーす。だけどとっつぁん、ここ真っ暗すぎて右も左も前も後ろも分からないですよ』

―「何のための地図、」

『自慢じゃないけど、私は東西南北なんて分からないですから!』

―「帰ったら地理の勉強だなぁ」

とんでもないことを言い出す征陸に、『これから一階西へ行きます』と適当に言ってみる。ため息こそ聞こえたものの適当が運を呼び方角が当たっていたのか、端末越しに感じられる征陸の柔らかい雰囲気だと勉強は何とか逃れられそうだ。

恩に切りますよー、征陸さん
と言いながら、手に持っているドミネーターを構え直す。と言っても、いつか話したとおりこの機物、和音にとってはかなり重たい。そのため太ももにベルトを設け、そこへ常備するようにした。そうすれば和音に掛かる負荷も少なく、それに――

『このように両手が自由になる、と』

ものの五分程ドミネーターを持ったばかりなのに、自由になった腕を回せばもうゴキゴキと音が鳴る。真っ暗な廃墟の中に少女である和音ただ一人きり。こんな銃で撃たれればそりゃ死ぬよ、なんて戯言を思ってしまうのは、仕方ないことである。
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