PP×戯言
□一章
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「今日は新しい監視官が配属される。二人目となるお前らの新しい飼い主だ」
『飼い主……』
何もそんな言い方しなくてもいいじゃないか、と執行官の誰もが思ったことだろう。いや、実際はまだ猟犬としての意識が根付いていない和音だけの不満なのかもしれないが。その証拠に、縢は平然と話を進めている。
「ギノさーん、その例の子、今は見えないようっすけど〜?」
「夕方からの勤務となる。事件が何もなければこの場で迎え入れるし、何か事件があれば新人といえど現場に来てもらう。どちらにしろ、詳しい紹介は後だ。何かあるか」
『……』
「では、解散」
子供が抱く感情の起伏に付き合っているほど暇ではない
解散の二文字で呆気なく四散する一系を見て、宜野座や他の執行官にそう思われているのではないかと和音は感じる。いや、実際子どもなのだからそう思われていても仕方ないのだがそのことを除いたとしても、あの何事もなかったかのように振る舞う姿が
大人と言うものなのか
シビュラシステムと言うものなのか
というのは、判断しかねる部分だった。
『……む』
事実このシステムは、
なんて難しいことを考えようとしたその時、何者かの手によって和音の頬が緩く伸びる。
『……痛いれす……』
「ほうけているからだ。行くぞ」
『えぇ〜』
その手の主はもちろん、朝から筋トレをする予定満々だった狡噛である。彼は既に頬から手を離したかと思えば和音の腕を掴み、頑張ろうなという応援の一声もないままトレーニング場に行こうとする。もちろん、数日前に作った傷が悲鳴をあげた。
『い――!』
しかし、その瞬間……
「狡噛、ちょい待ちだ」
「あ?」
勇み足を止めると、いつもと変わらないニコニコした笑顔の征陸がある方向を指差した。その先には、様々な課が発信する膨大な情報を掲示するための電子パネルがある。その多々ある情報の中一つを、征陸は指していた。
「見てみろ、受付から嬢ちゃんへ来客だ」
狡噛と、もちろん和音も征陸が見る方へ顔をやる。するとそこには、受付係から送られていたとある人物が映し出されていた。
しかし、見れば見るほどその場にいる全員の顔色が曇ってゆく。まずは、狡噛。
「……意外だったな。早見がこんな不良少年と知り合いだったとは」
『こ、狡噛さん!違います!私、あんな子知りません!』
次は征陸。
「いや〜嬢ちゃんくらいの歳にもなればああいうタイプが好みになるもんだよなぁ」
『髪の毛白色染色の顔面刺繍を彫るタイプなんてあるんですか!?そもそも私は性格が第一d、』
割り込んで縢。
「でもさぁ、案外お似合いなのかもよ〜?なんだかんだ言って和音ちゃんが尻に引きそう」
『違います!あれはどう見たって私が地面に引きずられるタイプです!』
女性陣は、さも「分かる分かる」のジェスチャーをする。
『何が分かるんですか唐之杜さん!六合塚さん!』
そして最後に、宜野座。
「……知り合いではないのか?」
『いや、だから、』
一通り皆へ釘をさし終えた頃には、和音は疲れ切っていた。はぁはぁと肩で息をするその態勢を少し整え、宜野座に返事をする。
『赤の他人です。友達でも、ましてや知り合いでもありません』
「……」
その言葉を聞いて、宜野座は再び目をパネルに移す。受付が聞いた情報だと名前は零崎人識と言うらしく職業は学生らしいことまでは分かるが、その他諸々の詳しい情報は引っ張り出せていないみたいだった。
「……」
見た目この異端をどうするか
素姓があまり分かっていない奴を和音に会わせることが正しいことなのか
等とそんなことを考えたが、気が付けば和音がギノのスーツの一部を握っている。どうした、とは口では聞かず目だけで先を促す。
「……」
『あ、あの……』
「……」
『確かにあの人は知らない人ですけど、私、あの人と……話がしてみたい、ですっ!』
和音が出す精一杯の勇気は周りから見れば小さなものだが、宜野座の眼鏡にはその時確かに、真剣な和音が写っていたのだった。