鋼→青
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「おい、本当に大丈夫なのかよ!?」
『へーへー、大丈夫ですとも』
「……」
「な!? 嘘じゃねえって、雪男! こいついきなり叫んだかと思うと顔真っ青で!!」
『だーかーら! レバーを食べる夢を見ただけだって!!』
「レバーであそこまでなるわけねぇだろ! どんなけ嫌いなんだよ、お前は!!」
「……」
雪男が燐とステラを残して部屋を出たのが30分前。
そんな雪男に腹を立てながらも、この状況は所謂棚から牡丹餅なのでは!?と、こういうことだけに何故か頭が冴える燐がステラを監視(という名の興味観察)を開始したのが29分前。
その視線故か夢の中で゛忘れないあの日゛を回顧して、ステラが思わず叫んでしまったのが2分前。
燐が驚きながらもステラの体調を気遣っている間に、色んな意味の良いタイミングで雪男がドアを開けたのが1分前。
そして――
「で」
『……』
「……」
鬼の面を付けていながらも笑顔は絶やさず、同年代の男女(一方は実の兄)を床とベッドに正座させて少しばかり頬が緩んでいる雪男が面でなく本当に鬼に見えるのが現在である。
「つまりあなたは、大声で叫ぶほど元気になったということなんですか?」
『うん。でも、今日は回復が遅いくらいだよ。いつもはもっと、』
「私が血を入れたのが悪いと?」
『やだな、買い被り過ぎだって〜』
「別に褒めてません」
手をクネクネさせて冗談めかすステラを、もちろん雪男はジトリと見る。しかし先程メフィストに言った言葉を違えるわけにはいかないので、雪男はため息一つでこの場を流す。
「はぁ。
しかし理由は何にせよ、元気になってくれさえすればこちらはそれでいいので。少し診せてくれませんか? 本当に元気か見定めたいので」
『診る? 体を?』
「はい」
『無理』
「は?」
『だから、無ー理ー』
「……」
前言撤回
例えこの女を探れなくとも、
例えメフィストに小言を言われようとも、
雪男はステラに媚びを売ろうとは思わなかった。もちろん遜ることも真っ平御免。いつからかは分からないが、雪男は口許が痙攣しているのが分かった。
「本当にあなたは強情なひ、
『じゃぁさ』
はい?」
突然の声に、雪男は目を向ける。声を発したステラの方へ。その雪男につられ、燐も見た。すると途端に尖った一声――
「ステラ!! 何だよその手!?」
「……っ」
二人の目先。そこには鋼で作られ腕の形をした、もはやステラの一部と言われるもの。
『私達の世界ではこれをオートメイル、って言うの。
どう? これでも私を診られる?』
「……っ」
「……」
見開かれる二人の目。燐は驚きで、あれから声が出ていない。雪男も同じように固まっていたが、ステラのそれを見れば問わないわけにはいかない。眼鏡の奥で眼光をキラリとさせ、「ステラさん」と声を張る。
『なに?』
「二、三お尋ねしたいことがあるのですが……宜しいですか?」
『……』
「……」
ニッ
『いいわよ』
検診問診。あ、ついでにもう一つ
(その素性を、垣間見せてもらおうか)