犬→ぬら
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そして、またキセルを口へ持って行く。吸うと、僅かながら煙が出た。
その一連の動作から、陽菜はぬらりひょんを強い妖怪だと察した。弱いものほど向かってくるものだ。
しかし、そうなれば陽菜にとってあまり良い状況にはならない。むしろ絶対的な降伏を余儀なくされているようで、陽菜は八方塞がりになってしまった。
体は、緊張や恐怖といったものから動くことが出来ない。だが、口だけは元気に動くようだ。陽菜は逃げる算段を組ながら、ぬらりひょんの手の内を明かそうとした。
『何か……目的があるんですか』
「ん?」
『奈落と関係……あるんですか?』
口は回るが、滑舌はよくない。唇が震えているのか、先程から歯がカチャカチャと音を立てる。
だが、陽菜は気にしないフリをした。弱みを見せれば、すぐにでも殺されそうな気がしたのだ。
『先に言っておきますが……私は何も、持ってません……何も』
「ふむ」
『だから、私が元いた場所へと返してほしいんです』
「ん〜」
適当に相槌を打っているように見えたが、不可能なことは渋る様子を見せる。それを聞いた瞬間、陽菜は目をカッと開いた。
そして――
パッ
手に持っていた膳を、離すのだった。