犬→ぬら
□04
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不安はあるが、だが何かあればこの膳を落としてでも対抗する気持ちはある。陽菜は目をキョロキョロさせながら、細心の注意を払って足を前に進めた。
――部屋を出てしばらく歩いた。
今は曲がり角を曲がって、新たに出現した廊下を一歩一歩前進する。
すると、目の前に一人の老人が。
『!』
まさか縁側に誰かが座っているとは思わず、陽菜はカタリと膳を鳴らせて立ち止まった。隠れようとも思ったが、あまりに驚いてしまったがために直立不動になる。
「お?」
そうなればもちろん、老人にも見つかる。陽菜は冷や汗を垂らして膳を離す準備をした。
「お主が客人かの?」
『……っ』
「どうしたんじゃ?」
何も言わない陽菜を不思議に思ったのか、老人は首を傾げる。それは一見愛らしい動作に見えるが、しかし陽菜の目にはそうは写らなかった。
『妖怪……』
「お?」
『あなた……妖怪ね……』
そう、陽菜は分かっていたのだ。老人・ぬらりひょんが妖怪だということを。
ぬらりひょんは、見ればなんてことない普通の人間に見える。しかし、そのトリックに引っ掛からずに本性を当てた陽菜は、やはりどこか巫女の力があると言えよう。
尤も、その力がかごめも同様にあるかどうかは疑問だが。
一方、見事に正体を当てられてしまったぬらりひょん。「ほぅ」と言いながらキセルに溜まった灰をポンッと地面に落とした。