犬→ぬら
□03
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だが、布団はそれほど大きくない。その塊は時間をとらず、ついに陽菜の前へと姿を現せた。
「プハッ! く、苦しかったぁ〜」
『っ』
瞬間、陽菜は目を奪われる。
その理由は、極めて簡単。
『あなた……本当に奈落の手下……?』
「へ?」
そう。目の前の茶髪の人物・昼姿の奴良リクオを見て、とてもあの奈落の手下とは思えなかったのだ。
これほどまでに優しそうな子が、本当に……
陽菜は考えを廻らせる。しかしこのようなケースは初めてではない。なぜなら、珊瑚の弟・琥珀についても初めはそのように思っていたからだ。しかし、琥珀が悪いわけではない。全ては、姉弟の思いを踏みにじった奈落のせい……。
あの奈落ならば、このようなことを何度だってやりかねない。きっと今回だって誰かの縁者か、はたまたどこぞの人間かを四魂の玉で操っているのだろう。
そう思うと吐き気を覚えると同時に、緩めていた警戒心を強める。陽菜はリクオを睨んだ。それはもう、ギロリと音がするほどに。
しかし、リクオの反応は意外なものだった。
「良かったー! 目が覚めたんだね!」
『、へ?』
あまりに嬉しそうに、そして心の底から言っているような言動に、陽菜は思わずマヌケ声を出してしまう。だが先方は急いでいるようで、散らかった布団を畳ながら話す。
「色々聞きたいことがあるんだけど、僕これから学校なんだ! だから次会うのは夕方になるんだけど……それまで暇だと思うからこの家、あ、う〜ん……」
『(阿吽……?)』
「あ、中庭なら大丈夫か! うん、中庭でも散歩してて!」
キチンと布団を畳み終わったところで、「若〜!」とどこからか声がする。するとリクオは時計を見、血相を変えて、「いってきます!」と躓きながら出て行った。