犬→ぬら
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ザアアァァァ
耳が水の音に慣れはじめた時、つららが口を開く。
「若、水が引きます」
するとその通り、壁は段々と高さをなくしていった。すると見えてくる、”何か”の存在。
「ん? 毛じゃねぇか?」
「動物か何かか?」
水位が下がる度に、本家の者は口々に予想する。しかし、一番身近で見ていたリクオがあっさりと否定した。
「いや、人間だ」
すると、その言葉を待っていたかのように滝、所謂水は一気に池に戻り、その内の”何か”だけになる。
それはリクオの言う通り、人間だった。
「女か。制服に……弓矢?」
動物に間違われた茶髪のミディアムヘアに、緑色のラインが入ったセーラー服。更に背に弓を背負っている人間といえば、思い当たる人物は一人しかいない。
そう。この人間こそ、井戸を通って戦国時代に行くはずだった陽菜なのである。
井戸にどのような不具合が生じたかは分からないが、陽菜は妖怪は妖怪でも妖怪の総大将がいる奴良組本家に来てしまったのだ。
だが、今は水を大量に飲んでしまったせいで意識がない。それ故、この緊急事態になっていることももちろん知らない。
一方のリクオ達も、何故滝の中から人間が出てくるのか等の疑問があったが、しかし本人が起きていないことには何の情報も得られない。
このままでは仕様がないので、空中から今にも落ちそうになっている陽菜をリクオが受け止める。
幸いにも手の届く範囲だったため受け止めて横抱きにすることが出来たが、リクオはそこからどうすればいいかてんで分からなかった。
「……」
しばらく無言が続く。しかしこれからだ、という時にそうゆっくりもしていられない。そう思った烏天狗はリクオの傍に寄った。
「リクオ様、この娘はうちの馬鹿息子共に任せてみては……?」
「……あぁ」
それから黒羽丸がやって来、一室へ連れて行く。リクオはその光景にどこか後ろ髪を引かれる思いがしたが、しかし久々になる出入りに再び力を入れ直し、窮鼠の元へと足を進めたのだった。