銀→青

□33
2ページ/11ページ



「あの……翼……」


『髪からポタポタ水が落ちて……。風邪引いちゃいます。きちんと拭かなきゃダメですよ?』


どこかお母さんのような翼の雰囲気に、メフィストは少しだけ抵抗する。


「い、いつもはそうなのですが、翼の声が……」


「聞こえたもので」というメフィストの声は、髪を拭くことで一生懸命の翼には聞こえなかった。


結果ゴニョゴニョとしか聞こえなかったようで、『え、何ですか』という言葉で終わる。


「いえ……」


が、悲壮感に浸っている暇はない。次メフィストの耳に聞こえるのは、思わず耳を疑ってしまう言葉だった。


『でも、私もついこの間燐さんに注意されたんです。こうやってゴシゴシされました』


「……はい?」


メフィストの表情は途端に歪む。燐の所でお風呂に入っていたということは知っていたが、このようなことがあったとは全く知らない。


「奥村くんに……ですか?」


『はい。 やっぱお兄ちゃんですよね』


「……」


クスクスと笑う翼に、メフィストの顔は歪むばかり。先程よりも更に眉間に皺を寄せ、無言で翼のされるがままになっている。



だが、無言になったのはメフィストだけではない。今まで明るく話していた翼も、メフィストと同じようにいつの間にか黙っていた。


不思議に思ったメフィストだが、しかし今は何故だか話す気が起こらないので口を開かない。



しばらく二人には、沈黙の間が出来たのだった。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ