銀→青
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「あの……翼……」
『髪からポタポタ水が落ちて……。風邪引いちゃいます。きちんと拭かなきゃダメですよ?』
どこかお母さんのような翼の雰囲気に、メフィストは少しだけ抵抗する。
「い、いつもはそうなのですが、翼の声が……」
「聞こえたもので」というメフィストの声は、髪を拭くことで一生懸命の翼には聞こえなかった。
結果ゴニョゴニョとしか聞こえなかったようで、『え、何ですか』という言葉で終わる。
「いえ……」
が、悲壮感に浸っている暇はない。次メフィストの耳に聞こえるのは、思わず耳を疑ってしまう言葉だった。
『でも、私もついこの間燐さんに注意されたんです。こうやってゴシゴシされました』
「……はい?」
メフィストの表情は途端に歪む。燐の所でお風呂に入っていたということは知っていたが、このようなことがあったとは全く知らない。
「奥村くんに……ですか?」
『はい。 やっぱお兄ちゃんですよね』
「……」
クスクスと笑う翼に、メフィストの顔は歪むばかり。先程よりも更に眉間に皺を寄せ、無言で翼のされるがままになっている。
だが、無言になったのはメフィストだけではない。今まで明るく話していた翼も、メフィストと同じようにいつの間にか黙っていた。
不思議に思ったメフィストだが、しかし今は何故だか話す気が起こらないので口を開かない。
しばらく二人には、沈黙の間が出来たのだった。