銀→青
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翼が手当てされて三日。朝が来ると同時に、翼の意識が戻る。
『……』
覚醒したばかりでよく分からないが、とりあえず体が重いことだけは分かった。そのため体を動かすことも、更には、頭を動かすことも億劫だ。
そうならば目だけでも、と翼は目だけを動かし、光が眩しく差し込む部屋を見渡す。すると、ここは自分の部屋だということが分かり、少しだけ安堵を覚えた。
『!』
しかし、自分の体を足から見ようとした時、思ってもみなかった人物の存在が確認出来る。
最初は驚くが、しかしその人物の邪魔にならないようにと何とか動いてしまうのを我慢する。
思えば、体は重いが右手はもっと重みを感じる。だがその方を見れば、その謎も一気に解決したのだ。
ベッドの横にある椅子に座ったメフィストが、その長い腕を伸ばし翼の右手を握っているのだった。
『……』
ここが自分の部屋だと分かっても、やはりどこか一人であることに不安があった翼。しかしメフィストが傍にいてくれると分かり、今度こそ心から安心したのだった。
コックリコックリと船を漕ぐメフィスト。
寝ること自体が珍しいのに、このような光景が見られるなど、恐らく一生に一度だろう。
当然翼も初めて見たのだが、何故だか少しの嬉しさを覚える。
そしてその感情がつい神経に回ってしまい、繋いである手をギュッと握り締めてしまったのだ。