銀→青

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メフィストは、走ることが出来なかった。


――そんな姿を見たくないから。



しかし、目を離すことも出来なかった。


――日に照らされる翼の姿が、あまりにも綺麗だったから。



そして、大声で名前を呼ぶことも出来なかった。


――言葉が出てこなかったから。いや、声を出すことさえも敵わないくらいに、何かがその場を圧迫していたから。




スッ



メフィストは翼の横へ、腰を下ろす。近くに行けば行くほど血の臭いが濃くなったが、その元となるこの場はまさに”源”だった。


一体どれほどの血を流せば、それほどの臭いになるかは分からない。だが、ただ一つ言えることは、翼は相当の血液を失っているということだ。



両足を前へ投げだし、頭を下げて木にもたれている翼。寝ているのか、気を失っているのか、それとも……。


「翼……」


急に不安になったメフィストは、控えめに翼の手を触る。ここで温もりがなければ本当に焦るが、脈は動いているし、手も温かい。


それにより、取り合えず翼が生きていることが分かったメフィストは、安堵の息を漏らした。


と同時に、緊張の糸が少し解れたのか周りを見る余裕が出て来た。


「……」


が、改めて見るその場は、何とも言い難い光景だったのだ。

 
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