銀→青(短)
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グツグツ……
『♪』
ある日、翼はキッチンに立って何かを作っていた。
それはまだ途中段階なのだが、キッチン内には甘く美味しそうな匂いがこれでもかと立ち込めている。
すると、その匂いにつられてやって来た客人、一名。
「それは何ですか?」
『わ! アマイモンさん、いつの間に……。
今日はチョコケーキを作ろうと思いまして! ウコバクさんにも許可をいただきましたっ』
エヘヘと笑う翼をそのままに、アマイモンはたった今翼が掻き混ぜていたチョコをなめとる。
『どうですか?』
「あまり甘くないです」
その答えに、翼はまた笑う。
『はい。今回は全体的にビターテイストです! 大人なケーキをと、思いまして』
「……」
が、アマイモンは何も言わずキッチンから離れる。「出来たら教えてください」と言わないあたり、やはりビターはまずかっただろうかと、翼は頭を悩ませる。
しかし、一分もしないうちにアマイモンは帰ってきた。
「翼」
『はい』
「これ入れてください」
『え?』
”これ”と言って渡されたのは、袋がボロボロの○テトチップス。中身が原形を留めていないのは、一瞬見ただけでも分かるほどだ。
『ど、どこへ?』
「ここです」
『あ』と思った時はもう遅い。○テチはアマイモンの手により、茶色い液体の中へと流し込まれる。
『……』
「翼、出来たら教えてください」
空になった袋をゴミ箱に投下し、名の通りの悪魔は去って行った。翼はしばらく呆然とするが、しかし止めるわけにはいかない。
先程出来たスポンジに、○テチ入りチョコレートを塗り込んでいく。見た目の感想はまぁまぁにしろ……
『み、未知なる世界だ』
味に確信は持てないのだった。
しかし、時間があれば出来てしまうもの。翼はカットしたケーキを悪魔兄弟の前へと持って行った。
それぞれフォークを持ち、そして、パクリ。
ドキドキドキドキドキ……
しかし、返ってきたのは何とも意外な言葉。
「おいしいですねぇ」
「わーい。おいしいですー」
その声を聞いて、翼が思わず『え』と言ってしまったのは、もはや言うまでもないことだった。