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□44
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「一番隊、行きます!!」




「「「「「「「はい!!!!」」」」」」」



『――はい!』



沖田組長、見ててください。


今度こそ、俺はあなたを護ります。



44:腑抜けはあっち



 ザシュッ


「うぁっ!!」

「ぎゃぁ!!」

「ぉあぁ!!」



何人もの一番隊が、何人もの浪士を斬る。今の所、一番隊の誰もが斬られてはいない。

しかし、五十人という人数だ。

いつ、誰が、どのような状態で斬られてもおかしくはない。隊士たちも、目で分かるほどに疲弊していった。

敵を斬っては敵に迫られ、
敵を斬っては敵に迫られ……

体力も精神も、隊士たちを蝕んでいったのだった。


「ハァ、ハァ……」

「もう、これ以上は……」


敵がこんなに多くなければ

せめてもう一隊、前線にいれば


しかし、沖田から「下がれ」の命令は下りない。沖田を見れば、今だ何人もの敵を斬っていた。しかし、隊士の方はついていけないらしく、どんどん後退していく。


一番隊の限界だ


隊士の誰もがそう思い、誰もが゛撤退゛の二文字を脳裏に浮かべる。そして後ろ向きで、一歩、また一歩と、屯所へと近付いていった。

しかし、その時。



隊士の横に、一瞬の風が吹いた――



『みなさん』


「「「「「!!?」」」」」


『大丈夫ですか? 腑抜けた面になってますよ?』


ハハッと、その風は笑った。

この戦いの中、有り得ない程の優しい声色で笑った。表情さえ見えないが、後ろで跳ねる長い髪は隊士に微笑みかけているようだ。


その風に、隊士は思わず息を飲む。しかし、風は一瞬で隊士の前に出てれば、すぐさま剣を構えた。

そして、今度は囁くように話し始める。


『疲れた人は横へ退けてください。まだやれる人は後ろの二番隊の中へ混じって。

ここは、俺と組長が残ります。

これから俺が敵を引き付けますから、その隙に――』


ザッと足を動かせば、回りにいる浪士も構える。見渡せば十人は越えるだろうか。

しかし、風は止まない。どんな障害物へも、臆することなく突っ込み続けるのだ。


たった一本の、刀を持って――



『新選組一番隊隊士、屯田亜門!!



来やがれ不逞浪士ども!! 俺が全員静粛してやらあ!!!!』


彩乃は名乗りを上げて、敵を見る。その間、背中に隠した片手で隊士に散るように合図を送った。

すると、隊士は散り散りにだがはけていく。加戦したいところだが、今の自分では足手まといになると分かったのだろう。

本音を言えば、いくら彩乃でも隊士を匿いながら戦うことは不可能である。そのため、隊士がいなくなるのは有り難い。

後は、沖田と木だけに注意して戦えばいいのだ。肝心な沖田はと言うと、彩乃が言った通り、彩乃と離れた所で今だ戦っている。


隊士ほど疲れた様子はなく、まだ戦えそうだ。本当にやばくなったら沖田の側にいって、きちんと護衛をしよう――と彩乃は心に決めて、目の前の浪士を見る。


すると、調度その時。浪士も頃合いだと思ったのか、一斉に彩乃に斬りかかってきた。数十人が一気に切り掛かって来るのだから、状況としては最悪だ。


しかし、彩乃は違う。


彩乃はその状況を前に、自然と、笑みが零れてしまうのだった。


『ムサイ、ムサイ。一斉にでないと怖いのか? いや、違うな。お前らからすれば一斉かもしれねぇが――』


ザッと、彩乃は剣を奮う。瞬間、二人の悲鳴が上がった。しかし彩乃は手を休めることなく、また一太刀、二太刀……。


『……ハァ、ハァ』


浪士に囲まれ、円の中心にいた彩乃。しかし何太刀か振り切った後は、その場にたった一人、地に両足を着けて立っているのだった。


『ふぅ〜……剣の速さって、人それぞれ違うよね! だから! 例え一斉で来られても! 速ささえ見切れれば! 一人もしくは二人ずつぐらい! 殺せるんだよ、ね!』


話しながらも、彩乃は剣を奮う。来る敵来る敵を、斬っては殺して行く。今殺した浪士が何人目か、分からないほどに。


しかし、気付かない内に時間は経っているものだ。


『ん?』


ふと横を見れば、三番隊との境界線である大木が見えた。目を凝らして前を見ると、確かに。逃げ帰る浪士たちを、三番隊が粛正していた。

更に、回りを見れば、向かって来る敵はもういない。何だかんだ言って、今の間に一番隊がほとんど片付けていたらしい。

一番隊を抜けて奥に進んだ浪士もいたようだが、二番隊によって全員お縄にされていた。

つまり今回活動した隊は、たった三隊であったのだ。屯所襲撃という、大きなテーマを掲げられながらも。

小数の隊士で撃退出来たとなれば、新選組の名は様々な場に知れ渡るだろう。彩乃の頭の中に、土方の不敵な笑みが浮かんできそうだった。


『いや、止めよう。せっかく敵を粛正出来て、気分がいいって時に。

と、それよりも――

沖田組長は〜無事だな、良かった』


沖田を見れば、途中から待機をしていたであろう神谷から手ぬぐいをもらっていた。それを何に使うんだ、と彩乃は笑いながら首を捻る。


が、


『ん? あれは……?』


笑ってばかりもいられない。彩乃の目にある物が留まったのだ。最初は小さくてよく分からなかったが、それが何かを認識出来ればすぐに理解出来る。



その物体は、危険だと――



『ちくしょ、間に合わ……!!


逃げて!!!!



神谷さん!!!!



痛切な叫び声が、その場に大きく響き渡った。

 

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