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神谷と沖田が仲良く、戦いに向けて準備をしている。これから決戦という時に゛仲良く゛というのはおかしいが、今はこれが一番良いのだろう。

彩乃も精神統一のために、一人で刀を手入れしている。様々な雑念を取り払うため、一人で――。


『……』


しかし、まだ早い。


「おい、副長からの命令だ! 全員配置につけって!!」


『……来たか』


彩乃の脳を埋めるものを雑念と呼ぶのは、まだ早い――。



43:へい、らっしゃい!!



「皆さん、浪士を捕獲しようという気持ちは分かりますが、それはあの大きな木までですよ。くれぐれも、そこから先は行かないでください。分かりましたね?」


「「「「「「はい」」」」」」


「でも槍隊が出るので、大丈夫だとは思いますがね」


緊迫する隊士に注意と労いを掛ける沖田。その後ろには彩乃と神谷がおり、どちらも沖田を護ろうとする気が溢れていた。

その気を感じ取っていた沖田は、少しばかり冷や汗をかく。しかし僅かな音に耳を傾けると、隊士に「静かに」と合図を送った。

辺りの静けさに混じって、彩乃も耳を澄ませる。すると聞こえてくる、何十人もの足音。


『(三十人、いや、もっといるな……)』


ざっと五十人くらいだろうか。五十人の浪士たちが、屯所に迫っている。この足音の大きさからして、斎藤が潜んでいる辺りを既に越えているだろう。


『(確か、監察が言ってたな。浪士たちに、俺らが検挙した浪士は怖くなって逃げ出したから、もうこの計画には乗ってこない、と吹き込んだって。

それもあってか、奴らえらく意気込んでるねぇ)』


冷静に分析する彩乃だが、次の声にハッとする。


「な、何者だ!!?」


門番の声だ。

現在浪士組は、草村に隠れる一番隊の目の前にいた。つまり、彩乃らは敵にいつでも斬り掛かれる状態なのだ。


一番隊が出る合図は、沖田が出す。その沖田は、相手が名を上げればすぐに合図を出せと、土方に言われていた。


「……」


沖田は全ての神経を尖らせ、声に耳を傾ける。こんな賭けのような捕物は初めてなため、百戦練磨の沖田でさえ、汗が滲んでいた。

その緊張は、近くにいた彩乃にも神谷にも伝わってくる。ドクンドクンと、沖田のか神谷のか、はたまた自分のものか分からない鼓動が、引っ切りなしに聞こえていた。


良い練習場――


そう言った土方をえげつないと言ったが、ここは確かにその通りの場所だと納得する彩乃もいる。

要するに……



『(血が騒ぐなぁ)』



疼く体を無理矢理留め、緊張と興奮で震えた手を何とか抑える。


しかし、そうしている間に声が響いた。



「我等は天誅のため参上した!!

我等の野望を叶えるため、貴様ら新選組には死んでもらう!!! 覚悟しろ!!!!」



この声が端を発し、そして――




「一番隊、行きます!!」




「「「「「「「はい!!!!」」」」」」」



『――はい!』



最後の砦と称された一番隊数十人が、先陣を切って、浪士の中へ刃を向けて飛び込んだのだった。

 

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