2

□41
1ページ/1ページ



『今日って、今日ですか!!?』


「そうだ」


「な、なんでそれを教えてくれなかったんですか!! 隊士にも知らせなくちゃいけないでしょう!?」


あまりに急な発表に彩乃と沖田は、土方の胸倉を掴まんとする勢いである。しかし、発言者である土方は二人を気にしてもいない。

そればかりか、眉に皺を寄せて「お前ら、どういうつもりだ」と、さぞご立腹の様子。状況が飲み込めない彩乃と沖田は、首を捻る。

すると、いつの間にか後ろにいた神谷が、ため息混じりに言うのだった。


「さっき副長言っておられましたよ。決戦は今日だって。お二人とも、聞いてなかったんですか?」


「『……』」


こんな二人に対して、土方は当然……


「重要会議を聞き漏らすなんて、余裕だなあ、お前ら? それは士道不覚悟ってことでいんだよな?」


『(局中法度、第何条かは忘れたけど……)』

「(士道不覚悟=切腹!!)」



「『すみませんでした!!!!』」



41:唐突すぎ



決戦は今日――


こんな重要事項を、二人がなぜ聞き漏らしたか。それは、一応の理由があってのことだった。



『(組長を守れ、って副長が俺に直々に言ってくれてる――ってことは、やっぱり俺は副長に信用されたってことか。よしよし、計画通りだ)』



と嫌な笑みを浮かべる彩乃とは反対に、沖田は……



「(屯田さんを私の側に置けだなんて……。私の側にいつも神谷さんがいること知ってるくせに、やっぱり土方さんは意地悪だ。神谷さん、落ち込むだろうな)」



と、こんなこと。後に、沖田の予想は当たっていると分かるのだが、その感情は私情に違いなかった。
もちろん、彩乃も同じである。


だが、切腹は断る


その思いから、二人は必死に頭を下げ、土方に許しを請う。すると土方から、

「お前(総司)がそんなんじゃ、下に示しがつかねぇぞ。気を引き締めろ。

屯田、お前もだ。でかい口叩くなら、それだけの行動をしろ。

分かったか?」

と、この言葉。的を得過ぎている言葉に、二人は素直に謝るのだった。


「すみません」

『肝に銘じておきます』


その言葉の後、「フン」と鼻を鳴らした土方はその場を去る。動悸がしていた沖田は「はぁ」と息を付き、彩乃は「危なかった」と汗を拭った。


「沖田組長、屯田さん……」


そんな二人を見た神谷は、うちのツートップがこれでいいものかと、暫く頭を悩ませたのだった。


と、その時。隊部屋を眺めた彩乃が、口を開く。


『そう言えば……さっきも今も、新入隊士いなかったですよね? 俺はいいんですか?』

すると、沖田も回復していたらしく、彩乃の横で「そう言えば」と辺りを見回した。今から血気盛んな隊士はチラホラ見えるが、確かに、新入隊士の姿はない。


「ん〜……あ、一番隊に限っては新入隊士は前線に含めないらしいです。だから、端から会議に出席させなかったんじゃないですか?」


『なるほど。え? じゃあ、彼らはその時何するんです?』


「土方さんいわく、他隊へ預けるらしいです。恐らく、屯所に近い所かと」


『あぁ、俺らでほとんど片付けろって感じで土方さんは言ってましたもんね。その俺らは門の外――確かに、屯所に近ければ近いほど安全だ。俺らの後には、一体どの隊が並んでるんでしょうね』


「さぁ、それは分かりませんが……永倉さん率いる、二番隊あたりかもしれませんね」


『お強いですもんね』

「はいっ」


つまり、(三番隊)→一番隊→○番隊→○番隊→○番隊→○番隊→屯所、という配列を、土方は組んでいるのだ。

この配列ならば、敵は進む毎に人数を減していくだろう。屯所に近いほど安全というのは、そういうことである。


「土方さん、楽しそうでしたよ〜。

゛敵を一網打尽に出来る上に、新入隊士の良い練習になる。更には攘夷浪士、京の奴らへの見せしめが出来るし、上からの信用も厚くなるだろう゛って」


『またえげつないですねぇ。練習って……竹刀でも木刀でもなく真剣なんですよ? 分かってるんですかね、あの鬼は』


「それを分かってやるのが、あの副長なんですって……」


土方の後ろ姿を見て言う神谷だが、その表情は曇っている。しかし、曇る理由は、どうやら土方のことだけではないらしい。


『(神谷さん、大丈夫か?)』


その理由が自分にあることを知っている彩乃は、神谷を見つめながら複雑な心境になるのだった。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ