PP×戯言
□六章
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とある人物の、とある日常について話をしよう。
その人物はなんの変哲もない、日常という日常を過ごしていた。学生時代、将来の夢は何だろうかと自分に問うた時、取り敢えずこの顔を活かすことが出来ればもうそれで良いと結果を出し、神様に祈りながらシビュラ判定に身を任せた。その結果、公安局の受付嬢として抜擢され、ここ2年、多忙な業務をこなしているのである。多忙、と言ってもマニュアルを覚えてしまえばそれまでで、今では何の刺激もないこの日々をあぐねながら過ごしていた。その一片が、こちらである。
「志穂、最近どうよ」
「えー、なにがー?」
「なにがって、男よ男!この前つまらないから別れたって言ってたじゃん」
「あぁー、まぁね」
「まぁねって、あんた……」
「それより!美佳の方こそどうなのよ!私知ってんのよ」
「え、何をよ」
「最近よくここに来る、あの奇抜な子!名前も変だったわよね。えーっと、なんだっけかな」
「……零崎人識」
「……」
「……」
やっぱり好きなんじゃん、という志穂に、あの子の受付は何故かいつも私になるからと反論する美佳。
この美佳という女性、昔から美を磨いていた成果が出ているのか、職についたこの二年の間もその美しさに振り返らない者はいなかった。志穂も綺麗ではあるが、おねーさんが好きという人識の目から見ると、二人の美人の中でも一際美しい美佳を選ぶのも不思議ではない。
そのためか、人識の受付を毎度する美佳はその名前を覚えてしまったのだ。しかし今の美佳を見ると、人識の名前を覚えたのは彼がただたんに常連だから、ということではないらしい。
「最近ではあの子の姿見ただけでも嬉しそうにしちゃってさぁ、本当、まさか美佳が年下好きだったとわね。さっさとメアドでも何でも渡して、彼氏にしちゃいなよ」
ここで、あの人識くん未だ中学生ですが、とツッコミを入れる者が誰もいなかったのは仕方のないことである。
彼氏にすればいい
その言葉を耳にした美佳は、でもなぁ、と眉をしかめる。
「あの子がここに来る理由、志穂だって知ってるでしょ」
「あぁ、あの執行官でしょ。まだ10歳だっていう最年少の」
「そぅ」
「何であんな子に拘るか、よね。でも、二人を見る限り付き合ってるような感じじゃないんでしょ?」
「まぁ……いや、でもそうでもないかな。この間来た時、二人共がお互いを見て、すごく嬉しそうにしちゃってね……その日はちょっと色相濁っちゃったわよ」
「……ありゃりゃ」
嫉妬とな、と志穂は笑みを浮かべるが、美佳はその時のことを思い出してか眉間に一層皺が寄る。胸中は様々だが、自分より年の若い小娘がライバルだと認めたくないということや、和音の人識に対する小生意気な態度がとてもではないが気に入らなかった。
「ねぇ、志穂」
「ん?」
人識の目を、和音から離せないものなのか。そのように言うと、志穂は考える素振りを暫くも見せぬまま飄々と答えた。
「そんなの、あの子をここから追い出しちゃえばいんじゃない?」
「え……無理無理無理。あはは!そんなこと出来っこないよ」
「いやいやいや。
そもそも、あの年齢でここに縛り付けられてるなんて可哀想とは思ってたしね。危ない仕事ではあるし、まだ施設にいた方が良いよ。あの子のためにも」
「まぁ、ね。でも、あの子がいなければ零崎くんは来ないよ」
悔しいけどね、と美佳が言うと、志穂はバカねと一言で返す。
「それまでに、美佳の方に心動かしておけばいんじゃない」
「……簡単に言ってくれるじゃない」
「美佳並みの美貌を持っていれば、カンタンでしょ?」
「言ってな」
ここでお客様一名。
受付嬢二人はサッと身だしなみを整え笑顔を作る。そして、男が落ちる笑顔で「ご用件を」と仕事に戻るのだった。