PP×戯言

□五章
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「ギノも早見には甘いな」

「何のことだ」

「とぼけるなよ。常守監視官、今頃怒ってるぞ。護送車の中が空だったってな」

その言葉に、宜野座は何も言わない。「予想だが」と狡噛は続けた。

「俺を唐之杜の所へ行かせた後、受付から連絡が入った。内容はもちろん、あの少年がまたここへ来たというものだ。いつもなら突っ張ね返すが、早見があの状態(色相数値が高い)だ。以前早見があの少年と話したいと言っていたことを思い出して、色相が少しでもクリア化されるかとお前は考え、結果、護送車の運転手と連絡を取った」


ーーもう執行官は乗っている。行ってくれ
ーー常守監視官、スイッチを入れろ。目的地は登録してある


「つまり、お前はこうなるように仕組んだんだ。ドミネーターを早見に向けた時嬉しそうな顔をしていたが、どうやら見間違いではないようだったな」

「……」

何も言わない宜野座。どうやら絞噛の予想は当たっているらしい。
その様子を見て狡噛はまた笑う。そして宜野座と同じく何も言わないまま、続けて部屋の前で待機をするのだった。

――と、そんなことが扉の前であったとは露も知らない部屋の中の少年少女。少年が「やぁ、さっきぶり」と言ったが、 和音は一瞬苦い顔をしてそのまま無視した。

「おい、何だよその態度。せっかくゆっくり話が出来ると思って楽しみにしてるってのによ」

『いや、別にあなたがどうこうとかではなく、そのセリフに……
いや、なんでもありません』

そう言えば双識のことは一系に言ってないんだったと思い、きっと扉の前で待機しているであろう二人のことを配慮して急いで口を紡ぐ和音。勘の良い人識はと言うと、今度ばかりは訳が分からないと頭を傾げていた。

「よく分かんねーな、まぁいっか。それより和音ちゃん、今何か¨¨ヤベーんだろ¨¨?」

『……誰が』

そんなことを?と言うと人識は答える。前髪だと。その答えに、外にいる者が両極端の反応を示す。

――「ま、前髪だとよ、〜っ」
――「黙れ」

中にいる者は続ける。

『……まぁ、私はいつ排除されてもおかしくない身ですからね。先程だって、私は撃てば死ぬ銃を向けられましたから』


――「ドンマイだ、ギノ」
――「……黙れ」


以前狡噛が、宜野座が浮かばれないと言った理由は、実はここにある。宜野座は決して、和音を殺そうとしているのではなく、反対に、生かそうとしていることを和音は知らないのだ。
と、そんなことを知る由ともしない二人は話を続ける。

「あぁ、確かあれも前髪だったな」

『はい、それも前髪です……まぁ、あまり前髪前髪と言わないでください』

ーー「お」
――「……」

『その前髪に従えている自分が虚しくなりますから』

ーー「……ああ」
――「……」

これを聞いてどうやら落ち込んでいるような宜野座の横で、狡噛は確信する。「あいつ、俺らが外にいること知って言ってるな」と。すると、
「 早見は昔から勘が鋭かったからな。事件の時のお前並みだ」
と宜野座。狡噛は、そうだったなと言うだけでそこから先は何も言わなかった。

和音と狡噛は歳が離れている。しかも和音に至ってはまだ10歳だが、大人である狡噛並の勘の良さを持つ。これは決して特技ではなく、シビュラシステムの中では異端にしかならないのだ。そのため勘の良さ一つにしても、和音は昔から苦しめられて来たのだ。その時悩んでいたのを知っているのは、偶々側に居たこの二人である。

「あの時はすごかったからな」

「……執行官の話をした時か」

「そうだ。自分はもう人として生きられないのかとか、システムに殺されるのではないのかとか。まぁこんなとこに連れて来られれば、そう思うのは当たり前だろうな」

「……」

自分の運命に接し、和音は慟哭した。それはもう思い出したくもない程、激しいものだった。
少しだけ話すと、和音が我が身惜しまず暴れ体に傷をつけるものだから、宜野座が大声を出し医療班を呼んだ。狡噛は和音を羽交い締めしようと機会を伺っていたが和音の動くスピードがあまりにも速いため、手を出しても弾かれるばかりで眉間にシワを寄せ何度も舌打ちをした。もちろん、最終的にはドミネーターを用意をしたが的は動くし当たっても効かないしで全く使い物にならなかったのだった。
そんな苦い経験がこの二人にはある。だからこそ、和音のためにとここまで暗躍するのだろう。しかしそれは優しさとか親切だとかそう言った次元ではなく、早見和音を生かしたいと言う願望が、宜野座と、そして狡噛の中に自然に生まれていたのだ。
そう言った感情は素敵だ。素晴らしい。人間にはないといけない、生まれるべくして生まれた、なければならないものだろう。

しかし、ここで問題となることがあった。それは、ただ一つ――

そういった人達が自分の周りにいるということを、和音本人が知らないことだった。
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