PP×戯言
□四章
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「ありがとうございます!」
「執行官に礼を言う監視間も珍しい」
狡噛の体もやっと思い通り動くようになった所に、朱が見舞いに来る。自分のせいだ、すまなかったと頭を下げるものの狡噛は「それがあんたの意思ならそれでいい」とすんなりこの話は終わった。いや、他にも朱が狡噛に感謝したこととか、狡噛が死ぬに死にきれない何かの理由があるのだとか、短い間でも話は色々あったが、今は朱が話す次のことに焦点を当てたい。
「そう言えば……」
「なんだ」
狡噛が素早く反応するとは反対に、話を切り出した朱が「いや」と言葉を濁す。後押しとして狡噛が「遠慮せず話せ」と言うと、朱はその重い口をやっと開くのだった。
「この間早見執行官とバラバラ殺人事件の現場に行ったんです」
「バラバラ殺人事件?」
「あ」
ずっと病室で寝ていた狡噛が、双識がやらかしたことなど知るはずもなく。
「あの事件があったのと同じ日、同じ廃屋で殺人事件が起きたんです。被害者は一人ですが頭部が……その、えっと……」
「体と頭が離れていた、だからバラバラ殺人事件か」
「……はい」
その言葉がすんなりと出ないのは朱の職歴が浅いからか、監視官と執行官で死に対する考え方が違うからか。朱がそう考えていると、「それで監視官、早見がなんだって」と狡噛が先を促す。
「あ、はい。そもそもその事件のことを知っていたのは早見執行官ただ一人で、なんでも、この間の犯人を捜している途中にその現場に出くわしたそうです」
「早見一人?」
「早見さんはよく一人で探索すると、征陸さんが……」
「あぁ、そう言えばそうだな」
数日で感覚が鈍ったか、狡噛は「忘れていた」と態とらしく自分の額を叩いた。それを目にした朱は、若干の呆れ顔をする。
「――話を戻します。
その現場を発見した当日は潜在犯のこともありましたし、気が動転していて現場のことを¨¨忘れていた¨¨そうです。だからその翌日、現場の報告を受けた私が早見執行官と共に調査に赴きました」
「……」
「しかし、現場には被害者以外は何も残っていなかった。凶器も、犯人の情報も、何も。
宜野座さんは潜在犯を尋問していることもありますし、この事件に関しては主に私が担当するようになったのですが……先程も言った通り、何も分からない状況です。
それに……」
また言葉に詰まる朱に、狡噛は今度は何も言わない。しかし、その目を見れば「早く続きを話せ」と訴えている感情がありありと見て取れた。朱は多少言いづらいことではあるが、覚悟を決める。
「その……現場に言った時の、早見執行官の様子が少し変だったので」
「変?あいつなら、」
いつもだが
そう言うと、今度は朱が目だけで狡噛に訴える。差し詰め、事はそう安易ではないのだ、ということを言っているのだろう。
「その現場を目にした瞬間から、早見執行官の行動が異常だったんです。被害者の……切断された頭部を手に持って、満足そうというか……どこか嬉しそうな、そんな感じでした」
「頭部を持って嬉しそう?」
「私が見た限りですが……」
「……」
衝撃、と言った方が正しいだろう。日頃行動を共にしている仲間が、切断された頭部を持って喜んでいるなんて、いくら潜在犯でも正気の沙汰とは思えない。自分だって頭部を蹴るくらいのことはしたって持って喜ぶことなんてしないだろう。と、狡噛も一般人とは少し違った考え方をしているが、潜在犯とはそういう思考を持っているのだと言ってしまえばそれまでだ。むしろ、その思考こそが、彼らが社会から弾き出された原因なのだ。一般人と違って当然なのだろう。
と、話が逸れてしまった。
元に戻すとしようーー。