PP×戯言

□二章
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カタンとブラインドを揺らして、その少女は窓へ寄りかかる。腕を組んで外を見るも、いつもと変わらない風景ばかりでもう見飽きてしまっていた。と言っても、ビルや住宅以外の行き交う人達の顔ぶれは当然変わっているだろうが。

『……』

だが、こんな牢屋同然の場所へ詰め込まれていて、そこから見える世界と言うのはたかが知れている。行き交う人がいつもと違う人だからと言って、その少女にとって目を奪われる程面白い変化があるわけではない。そう、そんなちっぽけな変化、元はと言えば気づくことさえ困難なのだ。

しかし、だからだろうか。少女は今、これまでにない胸の高鳴りを覚えていた。

『……っ』

「……」

窓を挟んでかち合う視線。一人は先ほど窓に寄り掛かっていた少女。そして、もう一人は……

「――」

『きゃあああああああ!!?』

この少女、和音までもを絶叫させる程の人物、である。
まぁ戯言はここまでとして。

もちろん、この声は一系全員を驚愕させる。

「どうした早見!」

「和音ちゃんどうしたの?」

と、こう言った具合に一系の全員(もちろん、あの六合塚も自身の胸を抑えて遠くからではあるが)心配そうに和音の様子を伺う。
しかし肝心の和音と言えば
「は、針金細工が私の名前を!」
と言うのみでそれ以外は何も言わない。これでは話がつかないと狡噛が和音の頬を軽く叩こうとした瞬間――

ビービービー
―事件発生、事件発生―

あまりの良いタイミングに、和音の体が思わず跳ねる。だが召集が掛かれば集まらないといけない。そのため和音を叩こうとしていた狡噛もその手を引っ込め、「行くぞ」とだけ言ってその場を後にしたのだった。

『はぁ、はぁ……』

一方、未だただ一人その場に残っている和音はチラリと外を見る。もちろん、その先には既に針金細工はいない。余談だが、針金細工というのはもちろん比喩である。和音が見た限り、目が合ったその

は体に合わない針金の様に
細くて長い手足
をしていたのだ。そしてこちらを見て、まるで探し物を見つけたかの様に嬉しそうな顔をしたかと思えば、いきなり

和音ちゃん

と和音の名前を呼んだ
のだ。初対面だと言うのに、全くの赤の他人だと言うのに。それなのにその男はさぞ自分を知っているかのように振る舞った。まるで本当にすべてを知っているかのように。しかしそのことがあまりに気持ち悪かったため、和音は鳥肌を立てながら大声を上げてしまったのだった。

『はぁ〜さっきのは一体……。
いや、そう言えば向こうが一方的に知っているこの状況、他にもどこかで……』

ここで零崎人識という名前が出てこなかったのは和音に似合わぬミスだが、それほどまでにこの時テンパっていたのだということなのだろう。

しかし、ここでずっとこうしていても始まらない

和音はもう一度ため息をつき窓の埃を飛ばしたところで、自身のコートを持って一系を後にしたのだった。

その時にふと、

『でもあの様子じゃ、
¨¨探し物¨¨っていうより、
¨¨捜し物¨¨の方が正解か』

なんて、どうでもいいことをふと思ったりもする。
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