PP×戯言

□一章
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ピピピピ、ピピピピ……

『……んぅ?』

パチンッ

寝ぼけていた割には勢いの良い手つきで目覚まし時計を止める少女。名を、早見和音と言う。

『今日……あぁ、狡噛さんに筋トレ手伝ってもらうんだった……。
あの銃なんとかならないかなぁ、重たすぎるんだもん』

ぶつくさ不満を零しながらスーツに着替え、ようとして数日前組手で作ってしまった傷を掠めてしまい、その鈍痛に顔を歪める。この傷そう言えばそうだったと思い出し、着替えの最後であるジャケットへ慎重に袖を通す。この間狡噛に一日相手をしてもらっただけでこれだ、今日なんて匍匐前進で帰ってくるのではないだろうか、なんて強ち間違いでもない予想をしたところで、出勤をするための全ての準備が整った。後は、この無機質な部屋を出るだけである。

『……』

和音は部屋をグルリと見回し、本当に何もない全面コンクリートだらけの部屋を見る。なんと年相応の部屋だろうかと戯言を思ってみたところで、浅いため息をつく。

『確かに、私の犯罪係数は不安定ではあったけどさぁ……何もこんなとこにこんなか弱い少女を閉じ込めなくたっていいじゃんねぇ』

寂しいじゃんかよ

と、本来であればもう自由の身になっている我が身を恨む。とっつぁんが明日は我が身なんて言葉をよく使うが、和音の場合、既に我が身。あの日コミッサちゃんに出会ってしまった時点で何もかもが変わってしまったのだ。

『僅か10歳にしてドミネーターをパラライザーモードにさせたこと、その後自分の力のみで犯罪係数を下げに下げたこと、後は……この軽い身のこなしが危ない、もしくは使えると思ったか。っとに、たったこれだけの理由で監禁なんて公安局様々ですね』

と、取るに足らない証言を撒き散らしたところで、腕時計を見て慌て出す。そして脱兎のごとく部屋から出て行ったのだった。

『すみません、遅れました!?』
「……あと五秒セーフだ」
「いやいや、それはセウトじゃないっすかギノさん〜?」
「『(セウト……?)』」

――彼女、和音は半年前この公安局刑事課一系に配属された。配属と言っても初配属で、しかも年齢10歳でとても社会人と同じテリトリーにいていい存在ではない。

しかし、和音は評価された。
その軽い身のこなし、素早い判断力、対象者ではなく自身ですら落ち着かせることのできる言葉巧みな説得及び説得力。
そして、和音は警戒された。
10歳であるにも関わらず犯罪係数がオーバーしていたこと。カウンセリングも何も受けずに自身の力で自然に犯罪係数を下げたこと。その軽い身のこなし、銃を扱うことに何の躊躇も見せないその精神力――放っておいたら凶器になる、そう、判断されたのだ。

言わば和音は、評価されているところと警戒されているところが正に紙一重な状態だったため、野放しにしていいものかどうか曖昧なところだったのだ。

しかし、本人の口から
生きれるなら牢獄でもいいから
という言質をとったため、公安局は和音を将来的に凶器になると判断し、監視官ではなく執行官として迎え入れたのだ。

あそこで和音本人の口から一言でも「施設に帰りたい」と言えば状況は違ったかもしれない。が、それでも和音は現在この場(刑事課一系)にいる。生きている。
あの時必死で生きたいと願った和音であれば口ではぶつくさいっているものの、その内心自身の心臓が動いていることに喜んでいるに違いないだろう。

「早見、行くぞ」
『〜っ、はいー!』

そうに、違いないのだ。


しかし、一難去ってまた一難。
彼女を取り巻く世界は時間を掛けずして変わっていく。その証拠に、今日も一系のベルが鳴る。
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