薄→風
□25
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『勝手な立ち振る舞い、誠に申し訳ありませんでした。全ては私の責任。どうぞ存分な御沙汰を』
「の前に、だ。まずは事の真相を話してくれ。総司の話だけでは、足らない所がいくつもある」
『はっ』
「ひどい、土方さん〜」
25:食えない
『の前に、一つお伺いしたいことがあります。よろしいですか』
「なんだ」
『は。巡察の道順は隊毎で決まっていて、いつも同じなのでしょうか』
「違う。不逞浪士が問題を起こす毎に変えている。それがなんだ?」
『はい。その話が誠ならば、この新選組の中に間者がいます』
「「「な!!?」」」
『確実に、一人は』
「「「……」」」
彩乃の言葉に驚く近藤、土方、沖田。今は彩乃のことよりも、巡察での報告会がメインだった。
三人が黙ったことを見計らい、彩乃は説明する。巡察経路を知っていたこと、一番隊が来ると知っていたこと――
『初めは十人で襲おうとしていました。しかし……一人も逃がす気はなかったため、゙沖田は強靭だから集められるだけ集めないと勝てない゙と召集をかけ、三十人に増やしました』
「そんな〜っ」
「逃がす気はなかったって……いくら一番隊と言えど、それは多すぎる。それに、もっと人が増えたらどうするつもりだったのかね」
近藤にしては珍しい、少し剣のある表情。それを目に納めてから、彩乃は笑う。
『ですから――例えどのような人数になっても、逃がす気はなかったと』
「な!? それは無責任じゃないのかね!? 君一人のせいで隊が全滅したら、どうするんだ!」
『お言葉ですが近藤局長、隊は関係ありません。俺が、逃がすつもりがなかったのです。相手がどれだけだろうと、俺は一人だって逃がしません』
「な、!」
『それに、昨日感じました。沖田組長という人を、その剣の強さを。それに、一番隊の方も同じです。
一番隊は強い。一番隊でなければ、俺はあのようには言いませんでした』
その言葉は、一番隊を信用している、ととれた。近藤は分かったのかどうか、微妙な顔をしたが、土方と沖田は笑っていた。
「一日で見破られるほど、こいつら(一番隊)の腕は見易いか?」
『はい、見易かったです。――とても、真っ直ぐでしたから』
不敵に笑う土方に、彩乃も面白そうに笑う。その様子を、これまた微妙な顔で沖田が見ていた。
「喜べばいいのか、稽古を厳しくすればいいのか分かりません……」
そんな沖田に、土方が「無論、後者だ」と言い付けたのはすぐのこと。ふて腐れる沖田を見て、今までの流れをやっと掴んだ近藤が、「分かった」と言う。
「君が総司を信じてしてくれたなら、私は何も言うまい。それに、三十人も引っ捕らえることが出来たんだ。大きな手柄だ。ありがとう、屯田くん」
『は、勿体なきお言葉』
これで一つ決着。さて、次に行こう。
『浪士を斬ったタイミングですが、浪士の言葉をきっかけにしました』
「総司の報告が正しければ、浪士からまだ情報を引っ張り出せたはずだ。お前の言うその言葉とやらは、相当言質のとれるもんだったんだろうな?」
土方の言葉は、挑発的。沖田いわく、土方の言葉を真っ向から捉えるのは、腹が立つだけだから止めた方が良いらしい。
今、彩乃が「同意だ」と思ったのは内緒だ。
『浪士は言いました。゛後にも先にもないこの計画だ゛、と。
つまり、前に行動を起こしていても、それは知れていること。更に、今後も屯所襲撃以上の企ては立てていない……
そんな奴らから求める情報など、あれ以上は考えられませんでした』
「……」
「これ以上ない言質であったと、私は思いますよ? 土方さん」
「〜っ!!」
沖田の一言で、苦々しく「分かってる!」と顔を背ける。これで、また一つ解決だ。
後残るは――
『しかし、いくらフリとは言え、新選組を散々に罵倒しました。沖田組長にもひどいことを……申し訳ありませんでした』
「罵倒? んなことは、総司の報告にはなかったが?」
「え、あ〜……もういいじゃないですかぁ〜。無事浪士を捕らえられたんだし」
「『よくねぇ!/よくありません!!』」
この息のピッタリ具合に、近藤は「仲が良いな!」と朗笑する。一方の沖田は、何故か顔を赤くして顔を伏せている。
しかし、勢いづいた二人は止まらない。特に土方は面白がって、「フッ」と鼻で笑った。
そして――
「話せ」
事細かに細部まで、彩乃から情報を得るのだった。