薄→風
□20
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「これから一番隊は巡察に出ます。ですが、新入隊士の皆さんはここで稽古を続けていてください。外を連れて歩くには、まだ不十分ですから」
「「「「はい!」」」」
『はいっ』
「あ、ですが――屯田さんは、こっち(巡察組)に来てくださいね」
『はいっ……え?』
20:試し斬り
「沖田先生!?」
沖田の言葉に、神谷は驚いて思わず聞き返してしまう。それは他の隊士も同様で、「危ないんじゃないか」とか「まだ無理なんじゃないか」とか話し合っている。
しかし、沖田は断固として考えを変えない。「大丈夫ですってば〜」と笑えば、誰も何も言わなくなった。彩乃の巡察行きが、決定したのだ。
『……』
彩乃は、沖田を見る。何を考えているのだろうと思ったが、真意を汲み取ることは出来なかった。
そんな時、神谷が彩乃の元へやって来る。
「屯田さん!」
『神谷さん?』
「屯田さん、あの、無理しないでくださいね! まずは慣れることからですからね!」
必死に気を遣ってくれる神谷に、彩乃は思わず笑みが浮かぶ。優しい子なのだと、すぐに理解出来た。
『ありがとうございます。緊張が解れました』
緊張など微塵もなかったけど、という言葉を心の中に閉まって笑えば、神谷は笑って沖田の元へ帰って行く。
「何してるんですか、神谷さん」
「す、すみません!」
『……』
先頭を歩く沖田の後ろを、神谷がピッタリとついて歩く。それはきっと毎回のことで、一番隊にとっては恒例のことなのだろう。
『(あの子は、向こうでの俺か)』
生前、沖田の後ろを歩くのは彩乃の役目だった。何かあればすぐ助けることが出来るようにと、いつもついて回っていたのだ。
『クスッ――(よく似てる)』
前を見れば、沖田と神谷。その後ろには隊士がついており、決して沖田が一人になることはない。そう思うと、彩乃は自然と笑みが零れた。
何も不安になることはない――
その一言が、彩乃を後押しする。今まで突っ掛かっていたものが、ここに来てやっと溜飲が下がったのだ。
『(何にも臆せず、行こうじゃないか。
考えてみれば、沖田組長のいない巡察なんて初めてだ。だから――
この巡察も、これからの生活も、組長が俺を一人前の武士として認めてくれた証だと思って、精一杯生きていこう)』
では、もしもその考えが間違っていたら?
『その時は、斬ればいいじゃん』
こんな愚考を起こした、自分をさ――。