薄→風

□14
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「……」

『……』

二人とも、教えられたことは同じ。


力で負ける男を相手にするならば、安易に突っ込んでいかないこと。その時は、弾かれておしまい


「……」

『……』


今までにない、静かな試合が幕を開けた。



14:似たり寄ったり



「……」


動かない彩乃を見ながら、沖田はあることを思い出していた。それは、頬を真っ赤に腫れ上がらせた彩乃の口から出た言葉――



『今度こそ、見返してやりますよ。

見てろよ、沖田組長』



それは、彩乃が独り言として呟いていた言葉。しかし、耳が冴える沖田には聞こえていたのだ。一字一句逃すことなく、正確に。


「(にしても、あの言葉は――)」


沖田と言った。組長と言った。その前に゛見返してやる゛という言葉も、状況には相応な言葉である。

しかし、沖田には何かが引っ掛かっていた。

「……」


何かが――



 ダアァァァンンッッ



「一本! 屯田!!」


「おや?」


一つ考え事をすれば、一つ失念する。このことを基本として生きているこの男に、残念ながら、神谷は自身の勇姿を見せることが出来なかった。せっかく神谷流の戦い方をしたというのに。


「神谷さんを背中から丸々投げたんですか?」


『竹刀より早いと思いましたので』


「お見事」


見ればそこには仰向けになった神谷と、膝を曲げて、見た目座った状態にいる彩乃。わざわざ姿勢を低くした理由は、背の低い神谷を投げだしやすいようにするためである。


「いったぁ〜!!」


ガバッと起きた神谷はどうやら全身を打ち付けたらしく、床をゴロゴロと転がる。しかし彩乃の前に戻れば態勢を整え、彩乃に頭を下げた。


「恐れ入りました! この神谷清三郎、己の未熟さを知る良い鍛練となりました! つきましては、私めの足りない部分をご教授いただきたく思います!!」


『え』


いきなりのことに驚くも、神谷は必死だし、沖田は頷くし。仕方なく、彩乃は低姿勢のまま眈眈と語った。


『神谷さんの場合は小さいし、幼い故に力も弱い。そのため、刀を投げ出して俺の首を狙ったの不意打ちは、良い戦法だと思います』

「はい」

『ただ――ご自分で承知されてるように、敵の懐に入り込む時間が少し遅いです。それに、不意を打つという割には速さも足りないような気も』

「は……はい」

『敵の元へ飛び込むのは勇気がいりますが、それを恐れていては逆に命取りです。どうしても恐怖を感じてしまうなら、大刀に専念すべきで――あ』

「……」


彩乃の分析力は長けている。しかし、長けているからこそ、出現してしまう犠牲者もいる。


「しょ、承知しましたぁ〜ッ!」


『す、すみません! 泣かないで神谷さぁーん!!』


その後、未だ痛みが全身に残っている体を酷使して、神谷は素振りを開始する。

それを必死に止める彩乃と、その光景を見て笑う沖田と隊士が、暑くなった道場を更にあたたかくするのだった。

 

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