薄→風

□13
1ページ/1ページ


「相田と屯田、どちらかが一本取るまで。審判は神谷が勤めます。両者良いですね」


「おう!」

『いつでも』


「では――始め!!」



13:死ぬよ



火蓋は、切って落とされた。


「きえぇー!!!!」


『――』



 パァァアンンッッ



「「「「「「「!!!?」」」」」」」


「え!!?」


「……」


『……』


何が起こったか。それは目に見えなかったため分からない。しかし、ただ一つだけ確実なことが言えるのは、この試合は瞬きする間もなく終わった、ということである。


「神谷さん、勝敗は?」

「ハッ! い、一本!! 屯田!!!」


呆然としていた神谷に、沖田がコールを促す。すると、始まった時から一歩も動いていない彩乃が「ありがとうございました」と礼をした。

反対の相田は、今なお、何が起こったか分からない様だった。

「……」

自分は確かに屯田へ一本取りに行った、しかし――その後はどうした?


相田がこのように悩むのは、彩乃が剣を奮う尋常ではない速さと、相手の全てを見切った彩乃の目の賜物であった。



『次! 誰でも良いんでお願いします!!』



隊士は驚く。
沖田は笑う。

彼らはそれで良いのかもしれないが、彩乃は同じように悠長にしている暇はない。沖田から信用を取り戻すため、短い間にたくさんの相手から一本を取らなければいけないのだ。


『次!!!!』


まどろっこしかったため、目をかっ開いて怒号を飛ばす。すると流石斬り込み部隊。俺も俺もと、あっという間に挑戦者が列を作った。


「オリャァアアア!!」


 スパンッ


「一本! 屯田!!」


「ヤァー!!!!」


 ダンッ


「一本! 屯田!!」


「ヤロオオオー!!」


 バァンッッ


「一本! 屯田!!」



『次!!!!』



その後の彩乃の凄いこと。
列を作っていた隊士は僅かな間に解散した。いや――彩乃によって、蹴散らされたのである。


「い、一本……屯田……」


最後尾にいた隊士が床と御対面する頃には、神谷の声もすっかり枯れ果ててしまっていた。しかしそれに凹たれることなく、防具をつけて、手に竹刀を持つ。


「沖田先生! 神谷、行って参ります!!」


「えぇ、楽しみにしてますよ」


精一杯出した声も、゛期待゛ではなく゛楽しみ゛と言われ、若干落ち込む神谷。しかし「お願いします!!」と彩乃に礼をし、闘志を燃やした。


「始め!」


復活した隊士が合図を掛ける。するとその場に男装同士――言い方を変えれば、女子同士の一本勝負が、始まったのであった。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ