薄→風

□11
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「さぁ皆さん防具を付けて! これから勝ち抜き戦をします! 新入隊士の鈴木さんと山田さん、左へ立ってください。相田さんと山口さんは真ん中、新入隊士の掛谷さんと森田さんは右へお願いします」

呼ばれた隊士は戸惑いながらも防具を付けてそれぞれの場へ立つ。すると沖田が説明を続けた。

「一本取った人はそのままその場へ、取られた人は隅で1000回素振りです。それが終われば、再び挑んでください。負ければ再び素振りです。その要領で一刻の間続けます! 楽しみですねッ!!」


「「「「「「(鬼!!!!)」」」」」」


『鬼だな……』



11:面を被ろう



沖田の案はこうである。

負ければ素振り地獄が待っているし、例え勝ち抜いていっても体力が切れて負けを誘発しやすくなる。どちらにしろ素振り行き、というわけだ。

更には素振りが終わってもすぐに挑みにいかなければならないため、素振り1000回の後も休憩はない。それを一刻もの間行うのだ、隊士にとってはこれほどに厳しい鍛練もないだろう。


隊士がこれからのことを嘆きながら準備をしている中、彩乃は袴を借りて外で着替えていた。あることを思いながら――


『(勝ち抜くのはたやすいだろうな。神谷は別にしても、あの相田やら山口やらという男もたいしたことはなさそうだ。一人勝ち抜いて素振りなど免れればいい)』


彩乃にとって素振りは嫌なものだった。特にあの沖田が側にいて涙ぐまなかった素振りはない。ただ素振りしているだけなのに……。

嫌な体験を1000回もしたくないと思うのは道理だろう。しかし、その思いのまま動くのは軽率なのであった。


『(新入隊士全員から一本取っても、既隊士の一人から一本取っても、後々面倒なことになるのは必至だ。

となれば――)』


それから暫くもしない内に、沖田の「始め!!」の声が道場に響いた――――




一本取る行為は、瞬きをする間に終了しているものである。そうでない場合は、双方の力量が同じだった時。双方弱いか、双方なかなかか、双方強いか。

ではその中の一つをかい摘まんで、今から実況をしてみよう。


『屯田亜門です! よろしくお願いします!!』


彩乃は新入隊士が残った場へと挑みに来た。そこへ立つものは息を乱しておらず、先の試合が瞬きで終わったのだと察しがついた。


「始め!!」


審判を勤めるのは、何故だか神谷。どうやら審判は手が空いている者が勤めるらしい。彩乃がこの制度を知って、『良い回避場が出来た』とほくそ笑んだのは言うまでもない。


 パァンッッ


――開始すぐ、相手の竹刀がとんでくる。どうやら先の試合で自信がついたようで、勢いと自信のある攻めだった。

しかし、そんなものが彩乃に通用するはずもない。


『(なんだこの下手くそ野郎。打っていきゃ良いってもんじゃないだろ)』


 ガキッ


跳ね退けたり受け止めたり……彩乃に取ってはつまらない時が流れた。わざと息を乱すことを忘れず、真剣な様子である振る舞いを続けて――これのどこに面白さがあるだろうと彩乃自身思ったが、後々隊の中で白い目で見られるくらいなら我慢出来た。


 パァンンッッッ


「一本、屯田!!」


『(つまらない試合を)
ありがとうございました』


そろそろ頃合いかと思い、相手の面目掛けて力強く打ち込む。わざわざ力を込めて打ったのは、自由を我慢させられて出来た今までの不満を、少しでも発散させるためである。


一本取ったものはその場に残る


その指示通り彩乃はその場で待機する。しかし自分の後ろから、低く重い声が聞こえた。


面を被っていても、はっきりと――



「面を取りなさい、屯田亜門」



『……』



「すぐにです」



振り向いて見た沖田は、怒っていた。


 

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