薄→風
□10
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「以上が仮配属の振り分けだ! そこでは組長の指示に従い、剣に磨きをかけろ! 一ヶ月の期間を経て正式な隊へ配属する!
以上!!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
『……はい』
10:妙な因果だ
彩乃はあの後、人がわらわらといる部屋を発見して飛び込んだ。のだが、そこで聞かされたことはなかなかに信じがたい現実なのであった。
『(どうして俺が一番隊……何で再び一番隊……)』
そう。屯田亜門は一番隊だー!と、まるで太鼓判を押されたような発表が土方の口からされたのだ。近藤を護る親衛隊として選ばれたのは喜ばしいことだが、生前同様に一番隊に配属されるとは、と彩乃は笑えなかった。
『(名前が一緒だった沖田と話しただけでも余計なことを口走ってしまったのに……この上一番隊に配属となれば、今まで以上の回顧の念に捕われるに違いない……)』
今以上に自分という人間を周囲に曝してしまうのではないか
彩乃はそれだけが心配だった。
彩乃はもともと、生前やり遂げられなかった新選組の繁栄を望んで再び隊士となったのだ。そして隊士となったからには、前の情報を知らぬ存ぜぬとするのはもちろんのこと、自分の情報さえも秘密にしておく必要がある。
しかし沖田にぺらぺらと話をしてしまったことや、昔ばかり顧みている今の自分に、彩乃は「このまま秘密に出来るだろうか」と不安に思ったのである。
そして不安になっているところへ一番隊の配属。彩乃が苦悩するのも無理はない。
『(これからが憂鬱だ……)』
しかし、隊務は待ってくれない。
「では、一番隊はこれから稽古をします! すぐに道場へ集合してくださいっ」
『……』
新しい配下が出来て嬉しいのか、ルンルン声の沖田が呼び掛ける。見ると沖田の隣には神谷の姿があり、二人は師弟関係にあるのだと、何故だか彩乃はすぐに理解出来た。
「沖田先生! 今日こそは一本とりますから!!」
「では、取れなかったら団子ですからね」
「はい!! ……え? 団子!?」
「武士に二言はありませんよね〜?」
「〜ッ! 分かりました!! 取ればいいんでしょう! 取れば!!」
「楽しみだなぁ〜!」
『……』
組長と平隊士のなんてことない会話。
師匠と弟子の冗談混じりの会話。
彩乃はただその会話を聞いているだけなのに、何故だか――
『……』
何故だか、胸が苦しくなる思いを覚えたのだった。
予感的中。
こんなことを言いたくはないが、彩乃は確かに、この新選組で生前の思い出をリンクさせていた――。