薄→風
□05
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時間をしばらく経て、ここは局長室。日頃は近藤と土方が話し合いを行っている場だが、今は沖田を含めた三人で何やら相談をしていた。
05:口、緩んでます
「にしても、今までよくその才を買われませんでしたよね」
「屯田くんか。確かに、あの剣術は見事なものだったな。是非とも試衛館の時から一緒にしたかった……」
「先生目が輝いていましたもんね!」
キャッ、キャッとはしゃぐ二人を尻目に、土方は眉を顰める。その姿を目に留めた沖田は先程のことを思い出しながら、土方に話しを振る。
「土方さん今はそんな仏頂面ですけど、あの時は満更でもなさそうでしたよね。笑ってましたし。――何か気付いたんですか?」
笑顔の沖田は変わらないが、その内容は明らかに何かを含んでいる。当然その意味合いを理解出来ない土方ではなく、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「あの野郎の新選組を志願した理由、それが入隊の決め手だ」
「理由? あぁ、農業より剣というところですか?」
「あぁ。あいつの゛護りたい方が近くにいる゛とかなんたらの下りだ。お笑いじゃねぇか。俺らは町民に邪険に思われるだけじゃなく、未だ幕府から信頼を得てねぇんだぜ。そればかりか馬鹿にされる始末だ」
土方の言葉に近藤が「こらトシ」と諌めるが、土方は片手を上げて静まらせる。
「そんな俺らのところに入って護りたい方、所謂太樹公をより近くで護りたいってんだ。面白い奴じゃねぇか」
「なるほど〜。屯田さんは武士になれたことと幕府から信用を得たことを前提に話しをしてたんですね」
「前提? それどころかあいつは絶対的なこととして話してたぜ。ほんと、とんだ阿呆な奴だ」
すると痺れを切らせた近藤が、畳を思い切り鳴らせて立ち上がる。語気の荒さから、大分興奮しているようだ。
「トシ! 先程からなんだその言い草は!! 我々は必ずや武士になり、今よりも更に太樹公を近くでお守りするのだ!!」
小さな瞳に闘志を燃やし、熱くなった近藤。その姿を見て土方と、そして沖田も優しく笑う。
「だからですよ、先生」
「え?」
「あいつと近藤さんは似てんだ。そういう馬鹿な考え方がな。あいつの言葉を聞くと、つい近藤さんを思い出しちまって」
「土方さん笑ってましたもんね!」
「夢見る馬鹿は嫌いじゃない。むしろ好物だ。だから俺はあんたに付いてくんだぜ、近藤さん」
「ト、トシ……!!」
上手く纏めたような、それが土方の本音のような――どちらにしろ彩乃を入隊させた理由は「彩乃を怪しんで」などではなく、゛志同じとする同士として゛入隊を許可したからなのだった。
(土方さん口口、緩んでますよ?)
(うるせぇ!!)