薄→風

□04
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『うっわ、やってしまった……』

「神谷!? 大丈夫か!!?」
「ダメだ、のびてる……」
「おい! 救護室へ運べ!!」

『……なんか……』



04:すみません、色々



一太刀で神谷を気絶に追いやってしまった彩乃。神谷は隊士に慕われているらしく、その神谷を悶絶状態にさせてしまった彩乃は完璧に新選組の敵になってしまった。そこまで言えるほどに、隊士から向けられる視線が鋭いのだ。


『(んだよ、別に死んだわけじゃねぇってのに大袈裟な)』


視線を視線で返し心の中で舌打ちをする彩乃だが、外見では常に低姿勢を取り繕っている。謙虚こそが世の中を上手く渡っていく渡世術と学んでいたのだ。

するとそこへ、土方を従えた近藤が歩み寄って来た。土方の後ろには笑みを浮かべた沖田もいる。


「いや〜屯田くん凄いじゃないか!! 君にそれだけの速さと威力があったなんて、我々皆驚いたよ」


『め、滅相もございません!』


見下されたことにまたもや舌打ちをしながら、近藤へ一礼。それと同時に頭から土方の声が降って来る。


「お前、どこで剣を学んだ? 流派は?」

『りゅ、流派?』


再び答えられない質問に、彩乃は焦る。自己紹介の時と同じように、勢いだけで何とかごまかす。


『剣は農業を営みながら己の生き甲斐として振っておりました! 故に流派はありません!』


自分なりに満点をあげたい答えだと思った彩乃だが、そこへ声色の高い沖田の言葉。


「え! ってことは我流ですか!? しかも道場にも通ってなかったなんて……すごいなァ。土方さんと一緒じゃないですか」

「俺は試衛館に通ってただろぉが! だが――確かに、いくら我流にしたって剣術に長けすぎてるな」

『!』


上手く取り繕ったつもりが、今度はそれが己への不信要素になってしまった。彩乃は失態にげんなりするものの、挽回を試みる。


『親は剣を持たせてはくれませんでした。゛そんな棒きれを振り回すくらいなら農業に勤しめ゛と。しかし、俺はその言葉にどうしても納得がいかなかった。好きなことに心酔して、心を奪われて何が悪いと。

いくら国の助けになりたいと思っても農業では奉公に限りがございます。しかし!!
剣は違う。この剣でなら護りたい方をより近くで護ることが出来る! 反旗を翻す低俗共にその身をもって懲らしめることが出来る!! 剣ほど奉公が形になるものはないと、そのように思ったのです。

これが俺が剣を極めた理由と、新選組に加入したいと思った理由にございます』


「屯田くん……!」

「いいんじゃないですか? 土方さん」

「……」


『……』


こんなものでよかろうかと思って述べた理由だったが、それは三人の溜飲が下がるという幸を成したようで、彩乃は無事に土方から「合格」の二文字を獲得するのだった。


また、その時の土方の口が僅かながらに孤を描いていたことを、沖田だけが知っていた。

 

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