薄→風
□01
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「たのもー!!」
01:はじまりはそこだ
ここは京都にある西本願寺改め、新選組屯所である。屯所では今日も隊士がせわしなく出入りを重ね、多忙に追われて涙ながら仕事に励んでいる。
新選組は嫌われている――
いきなりだが、彼等が行う行為に反感の念を持つ人は多い。不逞浪士は当たり前だが、役人を始め町人、商人等などあらゆる人達が新選組を良く思っていない。
だからこそ、嫌われているからこそ、新選組の本拠地である屯所は護りを固くしておかなければならない理由があった。その先陣として任を任されているのがこの二人。
先程から間抜け顔でいるこの二人は屯所を護る最初の部隊である門番なのだが、今はその任を放棄しているようだ。
門番二人の前にいは、一人の青年がいた。その青年は言うまでもなく、先程声を発した人物だ。そしてその人物にこそ、門番は思わず任を忘れてしまったのである。
その人物は目の前で大きく口を開け大きな声を出しながらも、その声は決して野太いものではなく凜としていて……
つまり、男にしてはえらく女らしい声だということだ。
だが、女らしいと思えるのはその部分だけではない。
男にしては体の線が細く、翡翠の色をしている着流しから伸びる腕も細い上に色が白い。茶色の髪は長く、腰まで存在しているが今は高い位置で一つに結われている。
そんな、いかにも女と思われるこの人物だが、女肝心の胸はない。まったいらだ。だからこそこの人物を男と認めるしかないのだが、クリリとしながらも若干の切れ長である瞳を見るとその決断が鈍る。
男にしておくは惜しい
散々懊悩を続けた結果、このようなことしか生まれなかったのが門番の痛手。この懊悩していた時間は30秒ほどだが、その間に門番は青年に馬鹿にされたようで、半クリ半切れ長をする橙の瞳に睨まれた。
『話にならない』
「え?」
『ここの大将に御目通り願いたいっていってんだよ』
「え!?」
松原彩乃、18歳。後に新選組の隊士である神谷清三郎と同い年だと発覚するのだが、それはまだまだ先の、それはそれは長い道のりを要するのであった。