鋼→青

□13
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「ステラさん、おはようございます」

『雪男? おはよう。相変わらず胡散臭い笑顔貼り付けてるわね』

「あなたに言われたくありません」

『……』


不覚にも、墓穴を掘ってしまった。


『……そう、あなたのその眼鏡、まだくたびれてないようね。残念、見えてないなら私の錬金術で直してあげようと思ったのに』

「壊す、の間違いではなくてですか?」

『補聴器の必要がいるのね。大丈夫。その眼鏡から形だけは作ることが出来るわよ』

「結構です。ステラさんこそどうですか? 注文なら外に行くついでに僕が、」

『結構よ』

「……」

『……』

燐とウコバクは思っただろう。どうして作りたてのご飯が冷えていくのだろうと。

もちろん、その理由が分からない、なんて馬鹿なことはない。食堂のど真ん中で一触即発をされれば嫌でも目に付いてしまうものだ。

しかし、ここにおいて誰も仲裁役に入らないのは、全てを理解しているからだろう。この二人に何を言っても焼け石に水なのだと。

だから見守るのだ。この先燐とウコバクが登場しないのは、こういった経緯があるからである――。


『私の何が気に入らないのかしら? 昨日一緒に考えさせたこと? それとも、兄弟二人の水入らずの中に邪魔な私が入って来ちゃったから?』

「断じて違います」

『わからないなぁ。あ、何?
もしかして、まだ私がスパイ的なやつとか、燐の命を狙う敵だとか思ってるの?』

「……」


『肯定、か』


ステラは笑みを浮かべる。心の中では、ここまで疑心暗鬼になったのは何か理由があるに違いないとも思っていた。

『身近な人に裏切られたか、それとも……


自分がそうだからか』


「!」


その時一瞬、ほんの一瞬だけ


「っ……」


『……』


空気が、揺れた。


ここに来ての勘の良さを褒めるべきかそれとも、自分の考えは違うと否定し続けるべきか。ステラは悩んだ。

『……』

迷った。

『……』

ウロついた。

『……』

彷徨った。

『……』

ほんの、

『……ふふ』


一秒だけ。


『ふふ! あー疲れた!
朝から疲れちゃったな。

ね、雪男?』

「……俺は!」

何かを言い逃れようとする雪男に、ステラはたった一言言った。
『知らないわよ』と。

「!」

『さっき燐にも言ったけど……
私には関係ないじゃない。
私も、あなたも。

二人の間に何があっても、どうせ私には関係ないじゃない。違う?』

「……」

何も言わない。それはつまり――


『肯定、か』


上等。いや、そうでなくっちゃ――


その時、雪男とはまた違う複雑な顔をした燐が、片方の口角だけを上げたステラを見たのだった。


13:つーかれたー
(馴れ合う、馴れ合わない)
(その問題じゃない)
(言えない事情は誰にだってあるもの)

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