鋼→青
□10
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パチンッ
パチンッ
パチンッ
「……」
ステラは自身の指を見る。何度も擦り合わせたせいか、第一関節から上の皮膚が赤く染まっており、若干腫れているように見えた。
ステラは静止して、指を見続ける。落ち着けば分かるが、指先が少しだけジンジンと痛かった。
しかし――
「ここまでしても出来ない、か」
自嘲的な笑顔。ステラは肩が下がるのが分かった。雷の他に手に入れようとしている能力、その名も、炎。
二つの能力を手に入れようとしているのが間違いなのか、それとも――
「自分がただ、ダメなだけか……」
はぁ、とため息を吐けば、隣から聞こえてくる規則正しい寝息。音を辿れば、両端に置かれているベッドの一方で、燐がシャツをまくり上げて眠っていた。
「……」
無防備というか、素直というか――
聞くところによれば、この世界もだいぶ危ないらしい。それも、この燐の側にいれば危険性も高まるという。その話を聞いた時、ステラは「用心しなければ」と気合を入れたのだ。
しかし、本人のこの態度。
とても自分が狙われているという認識がないようだった。逆に大物とも言えるが……
「でも確かに、毎度毎度気を張ってたんじゃ体がもたないわよね。あなたは正しいわ、燐」
燐の何を知ってそうういうのか分からないが、少なくとも、始終無駄に気を張っているステラよりは利口だと思えたのだ。
「ゆっくりいけばいいのよ。あなたみたいに……私は、何を急いでるのかな」
ステラは思う。
エドとアルといても、いつも正解に追いつけなかった。賢者の石のことだって、ホムンクルスのことだって。
ゴールは、いつだって遠かった。
しかし世界が違っても、それは変わらないことだった。ゴールどころか、人として見習うことが山ほどある。
燐のようになるには、自分は絶対――
「ゴールもあなたも……近づくには、まだまだ遠い」
ため息をついた後、ステラはまた笑う。しかし、解いた髪を乱暴にかき分ければ、そこから覗かせる顔には先ほどまでなかった覇気があった。
どうやら、闘志は燃え尽きてないようだ。
「本当、まだまだ遠い。
でも――だからこそ、近づかなきゃね」
そのすぐ後。
燐が寝る部屋には、軽快な指鳴らしの音が再び聞こえ始めるのだった。
10:やっぱり遠い
(苦汁は散々飲んできた)
(これから先は、努力の汗で潤すさ)