犬→ぬら
□03
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それから何時間経っただろうか。
正確なことは分からないが、陽菜は今一度目を覚ましていた。
『……』
無言でゆっくりと瞼を開ければ、障子から目を刺すような朝日が漏れている。耐え切れず、陽菜は思わず目を閉じた。
しかし、耳はしっかりと機能させる。澄ませると、外から「リクオ様〜!」と高い声が聞こえる。更には廊下をドタドタと走っているようで、とても陽菜に気を遣っているとは思えなかった。
この騒ぎのせいで自分は起きたのか
そのことに多少の苛立ちを覚えたと共に、昨日のことは夢ではなかったのかと落胆する。
陽菜は、ここは奈落の隠れ家で、自分は人質だと思っているのだ。そのため、昨日夢見心地で会話した黒羽丸を、当然のことながら手下と思っている。
『……くそが』
井戸まで操られるとは思わなかったため、陽菜はつい汚い言葉を吐く。更に、これからどうやってここを抜け出せるかに頭を回せば、なかなか出て来ない答えに苛立ち、布団を勢いよく蹴ってしまった。
しかし――
バサッ
「うゎ!?」
『!』
思い切り蹴り上げた布団は宙を舞い、陽菜の視界を遮る。しかしその向こう側で、男の子らしい声がした。恐らく襖を開けたのだろう。
『……』
陽菜は口を開けることなく、目の前の光景を見た。すると案の定、舞い降りた布団の下で「う〜」といううめき声と共にある塊が動いている。
こんな馬鹿な手下もいるのか
陽菜は呆れてその塊を見る。するとモゴモゴと動いていたそれは出口を見つけたらしく、ある方向に向かって一直線に進んだ。
『え……』
阿保らしいと思って見ていたが、それもつかの間。なぜなら出口である隙間は、陽菜と対照にあるのだ。このままだと、もろに対面してしまう。陽菜はどうしようと、珍しく慌てた。