廻る時空と黒の夢
□時空を越えて巡り合う絆
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なのに突然、チチウエが帰って来なくなった。
ジャキおにーちゃんとサラおねーちゃんはずっと泣いてる。
どうしてチチウエは帰って来ないんだろう?
「にゃおん?」
ぼくの声に、ジャキおにーちゃんはぼくの体を抱きしめる。
誰も、ぼくの言葉に答えてくれない‥。
部屋を出入りするヒトの話では、チチウエはジコに遭ったみたい。
そのジコの所為で、チチウエは帰って来れなくなったのかな‥。
ハハウエも前より帰って来なくなった。
ジャキおにーちゃんは、笑わなくなった。
ヒトと話さなくなった。
ずっと、ぼくやサラおねーちゃんと部屋で過ごすようになった。
寂しくなった部屋でおにーちゃん達と過ごすようになったある時。
部屋の外、ハハウエ達が出入りする扉の先からあの黒いモノのニオイがした。
「サラ!サラはおるかえ!」
扉が勢いよく開いて、入ってきたのはハハウエだった。
なのに、ハハウエの体をあの黒いモノがうねうねと纏わりついて、ハハウエなのにハハウエじゃないみたい。
ハハウエの姿をしたモノはハハウエの声で何かを話すと、強引にサラおねーちゃんを連れて行ってしまった。
「はは、うえ‥?今のは、母上なの‥?」
部屋でぼくと同じようにジャキおにーちゃんも立ちつくす。
おにーちゃんにもアレが見えたんだ、きっと。
「さっきの、黒い靄みたいなのは‥何?」
ジャキおにーちゃんの声が、段々震えてくる。
あの黒いモノのこわさを感じたんだ。
おにーちゃん、ぼくにも分かるよ。あのこわいのぼくも見たよ。
おにーちゃんに答えたいのに、やっぱり猫のぼくには「にゃあ」とした声しか届けられない。
どうにも出来なくて、ぼくが全身でジャキおにーちゃんにすり寄るしかなくて、そしたらおにーちゃんはぼくを抱きしめて泣いてた。
「皆、皆居なくなっちゃうの?
父上も母上も姉上も‥、あの黒いのが連れて行っちゃうのかな」
ジャキおにーちゃんの言いたいことは分かる。
きっとあの黒いのはチチウエを呑み込んだんだ。
そして今度はハハウエやサラおねーちゃんまで呑み込もうとしてる。
なら、ぼくとジャキおにーちゃんでサラおねーちゃんを守らなきゃ!
ハハウエはもうハハウエじゃなくなってる。
サラおねーちゃんを守れるのはぼく達しかいないんだ。
「にゃおう!にゃおう!」
「‥アルファド?」
しっかりおにーちゃん!アレが見えるのはぼく達しかいないんだよ。
サラおねーちゃんが黒いのに呑まれないように出来るのはぼく達しかいないんだよ!
ぼくの言葉はジャキおにーちゃんに届かないけど、それでもぼくは声を上げる。
もうぼくはオリの中で怯えるしかなかった仔猫じゃない。
ぼくの大切なカゾクを守らなきゃ!
「‥僕達で、アレと戦うの?」
「にゃおう!」
「僕達で姉上を守るの?」
「にゃおう!」
ぼくの気持ちが伝わったのか、さっきまで涙が溢れてたジャキおにーちゃんの瞳が力強く開いた。
「そうだよね、僕が姉上を守らなきゃ。僕はアルファドのお兄ちゃんなんだから!」
━その日からおにーちゃんと城の中、外、色々な場所を調べた。
あの黒いのが何処から現れるのか、どういう風にヒトを呑み込むのか。
どうやらあの黒いのにもいくつか種類があるらしく、凄くこわいニオイのするモノと、こわいニオイのしないモノがいるみたい。
そして、こわくないモノは元々弱かったり病だったり、年老いた生き物の側に居る。
周りを呑み込んだりせずに、その弱った命だけを待っているみたいだ。
でも前よりこわい黒いのをあちこちで見るようになった。
アレに呑み込まれたヒトは近い内に死んでいった。
“アレは死を招く”だからこわい。
漸くぼくも自分の本能の意味が理解出来た。
そして、こわいのとこわくないのは共鳴するらしいことも発見した。
こわいのがヒトを呑み込むと、こわくないのが大声で泣き叫ぶ様な音を上げる。
「きっと、死ぬはずじゃない人が死ぬから黒い風が泣いてるんだ」
泣いてる、ジャキおにーちゃんの言葉は確かにしっくりくる。
あれも、こわいのが命を呑み込む度に悲しいんだ。
黒い風が泣く度に、ぼくとジャキおにーちゃんは不安にかられる。
サラおねーちゃんが一緒にいれば確認出来るけど、離れているとこわいのがサラおねーちゃんに近付いているか分からないから。
それも、何度も調べていくうちにジャキおにーちゃんはどこの誰が呑み込まれるのか、大体の目星がつくようになったみたい。
凄いなぁ、ぼくの鼻じゃあアレがこわいのかこわくないのか嗅ぎ分けるしか出来ないのに。
「今日も、姉上は大丈夫だよ」
「にゃあ」
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