廻る時空と黒の夢

□トリガー小話
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「ねぇ、ルッカ。最近クロノの様子変だと思わない?」


暗い表情で開口一番に少女はそう話し出した。


「変って、クロノが?」


自身の道具の手入れをしていたルッカがそう聞き返せば、マールは彼女の横で膝を抱えて座る。


「こうやって皆でいられる時に居なくなって、暫くしたら戻ってきてるんだけど…」

「アイツが剣の稽古をしているのはいつものことじゃない」

「そうなんだけど、カエルに聞いたら…最近魔王と一緒に森へ行ってるみたいなの」


他者との接触を好まない魔王と幼馴染との以外な組み合わせに、眼鏡越しにルッカの瞳が見開かれた。


「あの魔王とクロノが?」

「うん、カエルとの稽古もしてないらしくて。そしたら二人が森に行くの見たんだって」


普段の明るくて活発な少女とは思えない程に小さく呟かれる言葉に、ルッカはやれやれと小さく溜息を吐く。


(クロノのことだから、魔王に魔法の特訓でも受けてるんじゃないかとは思うけど…)


ちらり、とマールの俯く横顔へ視線を向ける。


(私の大切な友達を悲しませるのは許せないわよ、モテ男君)




「アイツ、やっぱりその気があったのね」


ボソリと呟かれたルッカの言葉に、マールは顔を上げた。


「その気って、どういうこと?」

「だって考えてもみなさいよマール。幼馴染みで美女なルッカ様と、可愛らしい貴女がいるのに何もしてこないのよ?
女に興味が無いとしか思えないわ!」


自分よりも博識でクロノの事も良く知っているルッカの断言にマールは目を白黒させる。


「そ、それってどういうことなのルッカっ!?」

「男が好きなのよ、クロノは」

「お、男の人をっ!?えぇっ、クロノがっ!?」

「稀にあるらしいのよ、以前本で読んだ事があるわ。でもまさかクロノと魔王がねぇ」


ふぅん、と大人びた表情を見せるルッカの雰囲気とあまりの情報に、最早マールの頭の中はパンク寸前だ。


「おおやけに付き合うのは憚られるから、こっそりと二人っきりになってるんだわ」


段々と熱が込もり始めたのか、ルッカの口調も強く芝居掛かってくる。


しかし混乱の絶頂にいるマールはそのことに全く気付いておらず、更に追加される情報で目はぐるぐると回り始め、顔は湯気が出そうな程に真っ赤になって来た。


「ク、クロノが男の人を好き…、魔王と一緒に…、二人が隠れて付き合って…」

「マ、マール?」

「そんなの…そんなのいやぁぁぁーっ!!!!」


飛び出して行ったマールにルッカの制止の声は届かず、慌ててその後を追った。


(このルッカ様ともあろう者が、マールが箱入り王女なのを失念するなんてっ!)


「マールーっ!さっきのは冗談なんだから戻って来てーっ!!︎」


追い掛けるルッカがそう声を張り上げるが、マールの耳には入っていないらしい。


一心不乱にクロノと魔王が入っていったという森の外れまで駆け込んで行く。






一方、森の外れでクロノと魔王がこそこそしているのを疑問に思っていたカエルが、茂みの影から様子を窺っていた。


(…刃を交えるでもなく、向かい合ってつっ立ったままアイツ等何してるんだ?)


魔王が一言二言話し、クロノが集中するような素振りをするものの、カエルの位置からはそれ以上の変化は窺えない。


(魔法の特訓かとも思ったが、それだと向かい合わせでいる意味が分からねえし…)



考え込みながらカエルが尚も様子を見ていると、集中しているクロノの周りを魔力が包み込み、その身体がふわりと浮き上がった。


「うわわっ!出来たよ魔王っ!!︎」

「はしゃぐな、その魔力を保てんとすぐに落ちるぞ」


興奮して声を上げるクロノへ、魔王が冷静な声を掛ける様子はカエルがクロノと行っていた稽古と大差無いようだ。


状況の呑み込めてきたカエルが静かにその場を離れようとしたその時


「待ってマール〜っ!!」

「な、何だっ!?︎」


泣きながら大声を張り上げるマールの突然の登場で、かなりの高さまで浮き上がっていたクロノは集中が途切れ、丁度魔王の腕の中へと落ちてきた。


「わ、悪い…」

「あのまま落下して怪我でもされては面倒なのでな」


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