遙かなる番外編

□正夢
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正夢(遙か9代目拍手御礼話)1


頼忠は妙な夢を見た。
奇妙な装いの見知らぬ少女に突然親しげに話しかけられたのだ。
髪を切ったのかと言っていたが、このところ切った覚えも無いので当惑している頼忠に対して警戒心を持たずにお構いなしで近寄ってくる。
頼忠は刀を携えた武士である。
普通ならこのような年若い娘は怖がって刀を持つ武士などに近寄ってこないものなのだが‥‥。
ずいぶん馴れ馴れしい少女だとは思ったが、そういやな感じはしなかった。

『よく似合ってますよ。素敵です。』

と‥‥その恐れを知らぬ少女に柔らかく微笑まれて、その笑顔に頼忠は思わず年甲斐も無く照れてしまい、相手が誰であるかすらわからぬまま礼を言った。
相手はなんだかとても嬉しそうな様子だ。

《いったい‥‥誰なのだろう?》

『そうだ!今度お誕生日ですよね。前回失敗しちゃったからリベンジしたいんです。何か欲しいものありますか?』

《お誕生日‥‥?りべ‥‥んじ?》

馴染みのない語句が並べられて頼忠は困惑を通り越して当惑してしまった。

『‥‥欲しい‥‥モノ‥‥ですか?』

口数の少ない頼忠はようやくそれだけを答える事が出来たが、相手の次の言葉に今度は驚ろくハメとなった。

『食べたいものでもいいんですけど‥‥ほら‥以前‥‥真っ黒焦げの秋刀魚になっちゃったから‥‥このままでは神子の名がすたりますよね!』

《真っ黒焦げの秋刀魚‥‥というのは勘弁してもらいたいものだが‥‥ん?‥‥今なんと言った?‥‥みこ‥‥殿!?》

驚きのあまり抑えきれず思わず頼忠の口からこぼれ出た《神子》という言葉に‥‥今度は少女の方が混乱して慌てているようだった。
何か妙なことを言ってしまったのだろうかと不安になったが、それよりも頼忠にとって少女の発した神子という言葉が気になった。

今‥‥この世界には院のそばにいる龍神の神子と‥‥そして異世界からやってきたと星の一族が主張する龍神の神子‥‥すでに二人の神子が存在している。

『龍神の神子が‥‥まさか三人も‥‥だと?だが‥‥二人居られるのだ。‥‥もう一人ぐらいいてもおかしくはないのだろうか‥‥だが‥‥この少女‥‥よくみれば花梨殿によく似ておられる。』

《院の元に居られる方はお会いした事がないが‥‥この奇妙な服や‥‥童のような髪型‥‥それに顔立ちもどこか‥‥花梨殿に‥‥。》

『‥え?誰に似てるって‥‥?頼久さん?』

頼忠の思考は相手の声に阻まれてしまった。

『より‥‥ひさ?』

頼忠が困惑気に眉を顰めて呟いた。

《よりひさとは‥‥どこかで聞いた名だ‥‥はたしてどこだったか‥‥》

相手の少女は心配そうに頼忠の顔を覗き込んできた。

『どこか‥‥具合悪いの?頼久さん?』

《頼久‥‥そうか!この者は私を誰かと間違えているのだな。ではそれを正してやらねば‥‥。》

そうおもった頼忠は慇懃な態度で頭(こうべ)を軽く下げた。

『いえ‥‥何か勘違いをされておられますね。私は頼忠。源頼忠と申します。』

頭をさげたのは少女の体からみなぎる神気を感じていたからだ。この神気‥‥タダモノではないと‥‥。

『え?何‥‥?聞こえない‥‥。』
『ですから‥私は源‥頼忠と。』
『‥‥え?‥え‥ええーっ!!!頼久さんじゃないの!?』
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