伝勇伝

□おやすみ
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暖かい日光が差し込んで、朝の始まりを告げる
簡素に作られた執務室では、カリカリとペンを走らせる音が響いていた。
堆く詰まれた書類の山を片付けているのは、シオン・アスタール…このローランド帝国の若き王だ。
凛とした金の瞳に、気品のある銀色の髪
そして、好青年然とした微笑みで、老若男女を問わず民からの支持も熱い

彼等は口々に言う
前王の悪政から解き放ってくれた英雄王…と。

だが、今はそんなきらびやかな面は見る影もなかった
顔色は病的に青白く、目の下には幾重にも隈が出来ており、遠めからでもやつれているのがわかる
それもそのはずで、シオンはもうここ暫く不眠で働いていたのだ。
流石に10日を越せば辛いものがあって、
(眠くない、眠くない)
と、自己暗示でどうにか乗り切っている
それでも、シオンは頑張らねばならないと思っていた
悪政から解放したとは名ばかりで、今だこの国には闇が巣くっているのだ
民のために、自分は休んでいられない。


と、そこで突然扉が開き、のそりと長身の男が入ってきた
ライナ・リュートだ。寝癖の付いた黒髪に、やる気というものが欠落したような弛緩した瞳。
その瞳がシオンを捕らえると、彼は思い切り眉を寄せた。

それに構わず、つとめて明るい声をシオンはかける
「やぁライナ、早いな〜」
「って、お前が朝早くに使いを寄越したからだろうが!?」

なんて声を荒げてから、ライナは溜め息を吐いた

「お前、まーた寝てないだろ?」
「いや、ちゃんと寝たよ?」
「嘘つけ」

なんて言われて、あぁやっぱりばれたか〜と苦笑した
それにライナは、また溜め息をついて「寝ろよ」と言う

「この仕事が終わってから、」
「駄目だ。いい加減寝ろよ、ほんと。お前、凄いやつれてるぞ」

いつになく真剣に言うから、シオンは少し申し訳なくなった
ライナの表情は、怒っている様にも見えた
本当に心配してくれている、そんな表情。

敵わないなぁ、なんてシオンは思う
今のライナに勝てる気がしなかった


「ほら、仕方ないから俺が仕事やってやっから。お前は寝とけって。ちゃんと起こすし」
「…じゃぁ、お言葉に甘えようかな」


そう言えば、ライナの眉間の皺が解れて。
その表情が優しくて、思わずシオンの肩の力が抜けた
途端、全身が弛緩して、その場に崩れそうになる
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