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□絶対領域
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いよいよ迎えた学祭当日。
佐助は幸村への罪悪感からか、
早めにベッドに入ったにも拘わらず
殆ど眠れずに朝を迎えてしまった。

少しでも眠りにつくと、夢の中で何度も
幸村と鉢合わせしてしまい、軽蔑されり罵られた。

正夢になるのが怖くて、
深く眠りにつけなかったのだ。

「うぅ……肌のコンディション
悪かったらヤバい……。」

それでも幸村と鉢合わせしてしまう
恐怖よりも、本番のメイクのりを気にしてしまう。

「とりあえず貰ったパックでもしておこ。」

前日に女の子達から配布された
ヒアルロン酸だか何だかがたっぷり入った
美容液のパックを洗いたての顔面に乗せた。



***************

「よっ、愛しの君にはチケット渡したのか?」

「渡したけど……って、別に愛しの君とか
じゃないから。」

「そっか?その割には肌のコンディション万全だな。」

「メイクのノリが悪かったら人前に
出られないからね。」

「Ha!いい覚悟じゃねぇか。
その調子で皆を引っ張れよ。」

「ま、ほどほどにね。」

軽く溜め息を吐きつつ、佐助は鏡へと向かった。

これは自分を欺く為、忍ぶための変装。
たとえ真田の旦那に見られてもバレないように、
自分の中に眠る本当の自分がバレないようにする為に。


***************

「なーなー幸村ぁ、お前が話してた
幼なじみって今日はどこにいるんだい?」

「ああ、生憎佐助は出店を掛け持ち
していて多忙でな。今日は会えるか分からぬ。」

「え?そうなの?だから折角の祭だってのに
浮かない顔してんだ。」

「べ、別にそんな事はござらぬ!」

「ま、今日は俺に付き合ってくれよ。
祭は楽しまないと損だぜ?」

「ああ、某も来年はこちらに世話に
なるからな。学内の雰囲気をしかと
肌で感じなくては。」


***************

「ち、ちょっと……まだオープン前なのに
何この列っ!」

メイドカフェの教室前には、開店早々
客が列を作っていた。

政宗が学祭のSNSに宣伝リンクを貼ったのだが、
とても学祭二日間の為にだけ作られたとは思えぬ
クオリティのサイトは、色物要素満載な
女装メインのメイドカフェにも拘わらず、
本気の悪ふざけ感がネット上で話題を呼んでいた。

「今並んでる客は事前にネットで情報を得た
興味本位の奴が殆どだ。が、興味本位だからこそ
良い意味で期待を裏切れ。
俺達の覚悟を見せる時だ、Yousee?」

一斉にYeah!と掛け声が飛び交う。

否が応でもテンションが上がってしまうあたり、
政宗は人の心を動かすのが上手いんだと
関心してしまう。

「それじゃあ、とっておきのpartyを
始めようぜ。」


「「「おかえりなさいませ、ご主人様☆」」」


教室の扉が開かれると、待ちかねていた客が
一斉に息を飲んだ。

もっと残念なビジュアルや学祭の安っぽい
雰囲気を予想していた客達は、目の前にいる
のは確かに男の女装だと分かっているはずなのに、
つま先から頭のてっぺんまで完璧に装い、
極上の笑みで出迎えるメイド達に度肝を抜かれていた。

「ご主人様をお一人様ずつご案内しますね。」

先陣をきってお客一号の案内に出た佐助は、
媚び過ぎず事務的過ぎずの絶妙な匙加減で
ニッコリと微笑みながら席へと誘導した。



***************



「なーなー幸村ぁ、今そこにいた子達が
言ってたんだけどさ、西館の喫茶店が
すっごい事になってるんだって?」

「凄い事とは?」

「んー、まずは自分の目で確かめに行こうよ?」

「そうでござるな、何事も己自身で
確かめねばな。」


誘われるがままに西館へと足を運んだ幸村が
目にしたものは、日頃より余り得意としない
長蛇の列だった。
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