メイン

□絶対領域
5ページ/28ページ

元々料理も好きだし、可愛らしい
フワフワヒラヒラしたものも好きだった。

ただ、それは男の子が好きではいけない
もので、ただでさえ他の子と違い橙色の
髪の毛のせいで苛められやすかった俺様は、
自然と人前ではバレないようにした。

母親はレースやフリルが好きな乙女系で
女の子が欲しかったせいもあり、幼い時
はよくワンピースを着せられたが、
嫌がるどころか喜んでいる俺を見るに
見かねた父親は、近くにある武田道場に
無理やり入門させ、男らしくさせようとした。

それからフリルやレースの乙女らしい物は
母親を眺めるだけに留めていた。
が、その後小、中、高校と好きになる子は
大抵フワフワした服が似合いそうな華奢で
可愛らしい子で、たまに付き合えても
俺様好みの服装は好まない子ばかりで、
たまにそれとなく可愛い服を着て欲しい
なってリクエストすれば
『私は佐助くんの着せ替え人形じゃない!』
とか言われ、すぐ別れてを繰り返していた。


『貴様は女を見た目で選び過ぎだ。』

幼稚園からの幼なじみでお向かいさんの
かすがには手厳しいコメントを返されていた。

『だってさー、みんなあんなに可愛いのに
可愛い服着ないなんて勿体ないんだもん。』

『それなら自分で着れば良いだろう?昔みたいに。』

『やだなーかすがってば。昔ならともかく
今着たら似合う訳ないじゃん。』

内心ドキッとした。

自分で満たせない可愛いものへの欲求を、
彼女達を通して得ようとしていたのが
見透かされたのかと思ったから。

そう、

俺様は別にゲイでも女性になりたい訳でもない。

ただただ可愛いものが好きなだけなのに…。


そんな満たされない欲求を自覚した頃、
大学のゼミでの出し物がよりによって
女装メイドカフェに決まった。


『猿、お前ホールの経験は?』

『まあ…ファミレスでバイトは
したことあるけど。』

話しかけて来たのは大学内でも有名人の
伊達政宗だった。

何でも高校時代から起業し、モバイル事業から
飲食業まで手広く展開してるらしい。

めったにゼミでも見かけない彼が何故か
学祭の打ち合わせには顔を出し、誰かが
冗談半分で提案した女装メイドカフェを
『学祭で一番の売上出させてやる。』
の一言で決定させてしまった。


『それじゃあ、お前メイドだな。』

『えっ?』

『ちょっとコレ着てみろ。』

政宗が持って来た袋には、
フリルとレースいっぱいのワンピースや
エプロンが詰まっていた。

『え、いきなり?俺様可愛い系ってより
カッコイイ系だからさ、似合わないに
決まってるよー。』

長年封印してきた想いが溢れ出ない
ように、必死に興味がないように取り繕う。

『いいから着てみろ。』

ドスの利いた声に圧され、教室の隣に
ある資料室へと衣装ごと押し込まれる。

『5分で着替えろ。でないと扉開けて
強制ストリップにするからな?』

この男なら本当にやりかねそうなので
慌てて着ている服を脱ぎ、白いレースの
襟が付いた黒いワンピースを上から被ると、
キツいかと思いきやシックリと躯に馴染む。


資料室には鏡がないので自分がどんな状態
なのか分からないのがもどかしくなりながら
オーバーニーを履いていると、政宗が10から
カウントダウンを開始するのがドア越しに
聞こえ、佐助は慌ててエプロンを絞めて
扉の向こうへと踏み出した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ