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□絶対領域
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「「おかえりなさいませ御主人様☆」」

12時のオープンと共に既に店外で並んでいた
客がネコや犬、兎など様々なけも耳と尻尾を
着けたメイドに順次案内され席に着くと、
開店5分で満席となった。

外食産業不況真っ只中とは思えぬ盛況っぷりを、
独眼竜こと店のオーナーである伊達政宗は、
ご満悦な表情で眺めていた。

「いいねぇ、今日も上々の客入りだ。
な、小十郎?」

「は。これも政宗様の経営戦略のお陰ですな。」

厨房内を取り仕切る小十郎は、手際よく
ランチの仕上げを次々とこなしながら
政宗の呼びかけに応える。

「まあな。それにしても…あの猿は
イイ拾いもんだったな。」

朝は一番でランチの仕込み、テーブルセット
から日替わりランチのメニュー書きを短時間で
難なくこなし、開店と同時に今度は接客へと
回った佐助に視線を移す。

「一人で三人分は働く手際の良さは…
今まででも一番の人選かもしれませんな。」

「だろ?」

「確か猿飛は政宗様のご学友でしたか?」

「ああ、経営学なんて実践で十分だし
大学なんて肩書き正直どーでも良かったが、
あんな拾いもんもあるんだから行っといて
損はなかったな。」

「政宗様からそのようなお言葉が聞ける
ようになった点では、猿飛に感謝しねえとな。」

「そりゃどういう意味だ小十郎?」

「いえ、学業は優秀なれど学校生活に
今ひとつ興味が無さそうでしたから。」



厨房でのやりとりなど知る由もない佐助は、
テキパキと他のメイドの三倍受け持ちの
テーブルを回り、尚且つ愛想良く振る舞う。

「天狐ちゃん、オーダーお願い。」

「はぁーい、お待たせしちゃってごめんね☆」

「天狐ちゃーん、こっちもお願い。」

「もう、みんな順番に行くから待ってて☆
分身の術が使えたら良かったんだけど、
天狐の躯は一つなんだゾ☆」


客席から『分身してー!』とか『いくらでも
待っちゃうよ!』などとかなりむさ苦しい
黄色い声援を受け、佐助は活き活きと客席を廻る。

「……毎度の事だが、アイツの化けっぷりには
感心するのを通り越して若干引くな。」

「政宗様の名付けた通りの化けっぷり
ではないかと。」

「だな。ありゃまだまだ化けそうだ。」



佐助が呼ばれている『天狐』の名は、
この店での源氏名でありモチーフアニマルだ。

カフェ『婆沙羅屋』はスタッフそれぞれに
固定のモチーフになる動物があり、その動物に
ちなんだ源氏名がつけられる。

更に衣装は替われど自分の担当である獣耳と
尻尾は必ず装着するのがルールになっている。

ちなみに婆沙羅屋のコンセプトは

『可愛い男の娘メイドを観賞出来る
アニマルパーク』

である。

かなり特殊なコンセプトではあるが、
メイド・男の娘・獣耳とお好きな人には
堪らない要素を全部詰め込んだだけではなく、
カフェとしての飲食メニューのクオリティは
高く、拘りの強い客層が多い電気街の外れで
地下の店舗と言うハンデがありながらも
新規・常連客をしっかりゲットしている。


「ああ…今日の天狐ちゃんも可愛いなぁ。
俺の自慢のデジイチにその姿を収めたい。」

分かりやすい撮りヲタな常連客はウットリと
隣のテーブルに給仕をする天狐のミニスカから
スラリと伸びる美脚をガン見している。

「馬鹿っ!そんな事は心の中だけで呟かないと!」

「そうそう、前に店で盗撮しようとした輩は
奥からコノ筋の男が出てきて頭鷲掴みで
強制退店の上、噂じゃ消されたとか…。」

「……心のフィルターにしっかり
焼き付けましょ。」

「そうそう。」

婆沙羅屋はポラ含む一切の撮影を
禁止している。
店のサイトにあるスタッフ写真も顔出しは
させずに口元だけを出した動物の面で
隠してある。

大抵は写真マジックで実物を見たら
ガッカリ…なものだが、婆沙羅屋は実物の
可愛さがネットでも話題になり、
一目会いたいと興味を持った客がそのまま
常連になっている。

「天狐殿の美脚を包むオーバーニーからの
絶対領域は神業ですな!」

「そうそう、出過ぎず見えな過ぎず…あれが
絶対領域の黄金比!」

そんな男達の熱い視線を感じると、益々
テンションの上がった佐助は、
少し屈みながら上目遣いで小悪魔的な
笑みで応えた。
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