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□絶対領域
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「へへー、右目の旦那もイイ仕事すんね。」

無機質なロッカーの中を彩るフリルや
レースに溢れた物体を取り出した佐助は、
とろけそうな笑みを浮かべる。

「リクエスト通りに出来てるかなっ、と。」

おもむろに着ていたシャツとデニムを脱ぎ、
パイプ椅子の背もたれに掛けると、
襟やパフスリーブの袖口にレースたっぷりの
ブラウスを羽織る。

「よし、ちゃんとウェストんとこターツで
修正してくれてる。俺様って細腰だから
普通の着るとダボつくんだよねー。」

上機嫌な独り言を呟きながらブラウスの
ボタンを締め終えると、パニエ無しでも
フンワリ広がるダークグリーンの
サーキュラースカートを手にする。

「これならパニエ無しでもボリューム
あるけど…やっぱり履いた方が可愛いね!」

更にテンションの上がった佐助はロッカー
からオーガンジーでフワフワのパニエを履き、
スカートをフンワリとボリュームアップさせる。

「うんうん、いいねぇ〜。」

一人大きな姿見の前でクルクルと回転し、
バックラインまでしっかりとチェックする。

「あとは…お待ちかねのコルセットキター!」

テンション最高潮の佐助は、スカートと
同色の前には金古美のアンティークな釦、
バックは編み上げのコルセットを装着する。

「ん、ちょ…っと…きつめに締め上げ
ないとなぁ。」

器用に背後の編み上げの紐を自分で引っ張り
ながら調整する。

「よし!後は使い回しでいっか。」

ロッカー内の衣装からフリルたっぷりの
エプロンと、履き口にレースが縁取られた
オーバーニーソックスを取り出し、手慣れた
手つきで装着する。

「よーし、衣装かーんせー!」

再び姿見の前でチェックをすると、
可愛らしく上目遣いをしたり顎の下に組んだ
手を置いてみたりと、ポージングのチェックも
念入りにしてみる。

「このままでも可愛いけどぉ、お仕事仕様に
変身しないとね。」

ロッカーから大きめのメイクボックスを
取り出し、髪の毛をバンダナで上げると、
これまた手慣れた手つきで下地、ファンデ、
アイライン、マスカラ、つけまつげ二枚重ね、
チークとメイクを進めていく。

「唇はツヤッツヤのプルプルでないとねー。」

仕上げのグロスは三度重ねでツヤッツヤの
プルプルにする。

「さて、と。今日はどれにしようかな?」
色とりどりのウィッグから、ハニーゴールド
のツインテールを選び、ウィッグネットで
橙色の地毛を押さえて装着する。

「んー、我ながら惚れ惚れする
変身っぷりだねぇ。」

鏡に手を合わせ、別人に変身した己に
ウットリと恍惚の笑みを浮かべる。

「Ha!今日も見事な化けっぷりじゃねーか。」

「あ、独眼竜の旦那ぁ。どう?似合う?」

控え室の扉の前に現れた男は、右目を眼帯で
覆い、訝しげに隻眼で佐助を見つめていた。

「流石小十郎の仕事はいつ見てもexcellentだな。」

「ちょっとー、中身も褒めてよぉ!」

「あー、まぁまぁってとこだな。」

「もー、揃いも揃ってツン要素ばっかなんだから。」

「ゴタゴタ言ってねえでオープンの準備しな。」

「へいへい、人使いの荒いオーナー様ですこと。」

「おい、アレ忘れてんぞ。」

「今から着けるってば!」

独眼竜と呼ばれた男が指差した先には
フワフワのファーで出来たウサギやネコや
犬の耳を象ったカチューシャと、対で
各動物の尻尾が並ぶ。

「あのさ旦那ぁ。」

「Un、どうした?」

「俺様の尻尾さ…大き過ぎて邪魔なんだけど。」

「仕方ねーだろ?それがお前のmotifだからな。
化けるのが上手なfoxちゃん。」

「ちぇーっ!」

「猿飛、テーブルセット手伝え!」

ドスの利いた小十郎の呼び出しに促され、
佐助は渋々と黄金色の三角の耳のカチューシャと、
大きな尻尾を装着しながら店舗へと急いだ。
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