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□絶対領域
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これで最後になるかもな…

妙な緊張感で今にも震えそうな手を諫め、クッキリとデカ目になるようアイラインを入れ、付け睫も盛る。

見られる可能性はゼロに近いが、やるなら徹底的にが信条の佐助は、下着も一番お気に入りのピンクのフリルとレースてんこ盛りな上下を身に付ける。

「あとコレも、着けておかないとね。」

多少髪型が変わっていても判別出来るように、天狐のモチーフである狐耳と大きな尻尾を仕上げに着けた。





「……佐助、おるか?」

指定していたキッカリ一時間後にベランダの窓を軽くノックされる。

「ああ、鍵開いてるからそのまま入って来て。」

「分かった…。」

昨晩とは打って変わって大人しく窓を開けて部屋に踏み入れた幸村は、部屋にいるはずの佐助の姿がなく、キョロキョロと部屋を見回す。

「こっちだよ…」

「どっちだ?…………っ!そ、そなたはっ!!」

幸村の背後から声が聞こえ振り返ると、窓の脇に立っていたのは、店先で顔を合わせた『天狐』の姿があった。

「な、て、天狐殿……佐助はどこでござるか?確かに先程佐助の声がしたのだが……。」

「ここには居るけど居ないよ。」

「なっ!!何故ゆえ姿を隠しておるのだ?」

だが、それ程広くない部屋に隠れる場所など少ない。

一番可能性の高そうなクローゼットまで足早に進むと、一気に扉を開く。

「佐助っ!!どこに隠れてお……る?」

開かれたクローゼットの中には、あからさまに佐助とはかけ離れたフリルとレース満載のメイド服やワンピースが吊されていた。

「それで分かっただろ?」

「まさか………」

「そうだよ……お『天狐殿、そなたはここでその……佐助とど、同棲されてるのか?』」

「え?」

「そうか……もう、既にそこまで二人の仲が進んでおったのか…。」

絶望に満ちた幸村の瞳が揺らぐのを見て、佐助はまたもや盛大に勘違いされた事に気付く。

「そ、そうだとしたらどうするの?君には関係ないんだからどうでも良いんじゃない?」

自分で言っておきながらギシギシと胸が痛む佐助は、幸村に更にけしかける。

「関係は……なくはないっ!!」

揺らぐ瞳を閉じ、グッと奥歯を噛み締めた幸村は目を見開いて『天狐』を見据える。

「なくはないって…?」

「某は……天狐殿より遥か昔からの付き合いがある。」

「別に、付き合いの長さなんて関係ないでしょ?」

「確かにそうかもしれぬが……そなたに佐助は譲れませぬ。」

「譲れないって…君は、佐助をどうしたいの?」

身体は微妙な距離を保ちながらも、言葉で幸村を追い詰めていく。

ここまで来たのだから、幸村自身で気付いて欲しいから。


「……某だけを、見ていて欲しい。」

「見ているだけでいいの?」

「出来る事なら誰の目も届かぬ場所に閉じ込めて独占したい……」

「独占して……どうしたいの?」

幸村は顔を紅潮させながらも、躊躇いなく答える。

「身体の隅から隅まで某のものだと言う証を印してしまいたい……」

ただ好いた惚れたと言われるよりも鮮烈な告白に、佐助は心の中で白旗をあげた。

「それじゃあ、彼奴を前にしてもう一度言える?」

「無論だ。」

「了解……」

そう言うや否や天狐は瞼からパリパリとつけ睫を剥がし、側に置いてあった拭き取り式のメイク落としコットンで顔を拭いだした。

「な、て、天狐殿?」

天狐の突然の行動に呆気にとられていた幸村だが、コットンがメイクを拭い取った目元に驚愕する。

「まさか……これは一体?」

粗方メイクを拭い取ると、確信を持たせるためにウィッグもつけ耳ごと外し、艶やかな茜色の地毛を幸村の眼前に晒した。

「驚いた?」

「これは…夢、なのか?」

「そうだよね、こんな気色悪い俺様、悪夢だよね。」

「違うっ!俺が……疚しい思いを抱き過ぎた故、佐助が具現化した姿で眼前におるのか?」

「具現化?って……どんな疚しい事考えてたの?」

「お主、昔はおなごのような格好をしていただろ?」

「ああ……昔は俺様も可愛かったからね。」

「あの頃より佐助を嫁にしたいと両親に懇願したのだが、佐助は男の子だから嫁には出来ないと聞かされ俺は泣いた。」

「そう、だったの?」

しかし心当たりがあった。
佐助が女の子の格好を止められた時期、きっと両家の両親の間でその話題が出たのだとしたら合点がいく。

「しかも佐助にその様な事を言ったら嫌われると諭され、友であれば一生仲良く出来ると言われたのでな…嫌われるより友である道を選んだ。」

幸村が自分の為に幼い幸村がそんな決断をしていたなんて知らずにいた佐助は、胸が痛んだ。
「佐助は友だ、おなごとして見てはならぬと何度自分に言い聞かせても心は幼き時より変わらず…否、いかがわしい欲に駆られる分年々質が悪くなっていた。」

「いかがわしいって?」

佐助が訊ねると、些か口ごもりながら言葉を続ける。

「その……年頃になり佐助にも彼女らしき女の影が見えた時にな、俺も周りと同じ様におなごに目を向けねばならぬと思ったが……佐助以外に可愛いと思える者はおらんかった。」

「可愛いって……俺様旦那と背丈変わらないし、どう見ても可愛いとは遠いだろ?」

天狐にしても男の娘として把握された上での可愛さだと佐助は自覚している。

「見目だけではないぞ。細やかな気配りや、我が儘な俺を優しく包む広い心持ちと包容力。どれを取っても佐助以上の者を見つけろと言うのが無理な話だ。」

「そ、そんな…買いかぶり過ぎだよ旦那っ!」

こんなにも自分を高く評価し、他の女子を寄せ付けなかった幸村に、照れくさい気持ちを超えて大丈夫かと心配にすらなる。

「あとな…女子の制服や昔佐助が着ていたようなヒラヒラとした服を着た者を見かけると、つい佐助が着たら似合うだろうなと……その、何だ………っ」

「もしかして……女装した俺様をオカズにしちゃった……なーんて……」

甘くも重苦しい空気を変えようと、軽い冗談のつもりだったが、幸村の顔色や泳ぐ目線で墓穴だと悟る。

「すまぬっ!いくら妄想とは言えども佐助を散々っぱら穢してしまっていた。」

ドスンと音をたて、幸村はその場に床に額を擦り付けるように土下座した。
「や、どんな風にさせてたか知らないけどさ、こんな趣味があるから半分は事実だからいいんじゃね?」

「いや、しかし……俺は許されぬ程お前を、妄想の中で……」

このままでは頭が床にめり込んでしまうのではないかと思う程頭を下げ続ける幸村の前に、佐助はゆっくりと膝まついた。

「ねぇ旦那……顔上げてよ。」

「いや、まだ俺の気が済まぬ!なあ佐助……俺はどの様に詫びれば良いのだ?」

こんなに弱気な今にも泣きそうに縋るような声を出されては、佐助は手を差し伸べずにはいられなかった。

「じゃあさ、許して欲しかったら……そのまま頭上げて?」

「…うむ、ん……?んん??……っぬわっ!!!」

顔を上げた幸村の視界は一瞬真っ暗闇になり、周りを布で覆われていた。
よくよく目を凝らすと、そこにはフリルとレースがふんだんにあしらわれたショーツのどアップがあった。

「俺様も…こんないやらしい下着つけて、旦那が触れてくれるかもって、はしたなく期待してるんだから……おあいこだろ?」

「な、なんと……は、破廉恥な…」

薄布一枚越しにいやらしく興奮の兆しを見せ始めている佐助の下肢を前に、幸村は鼻息を荒くして距離を縮めていた。

「やだ…旦那、息が…当たってる…ぅ」

佐助の嫌は甘く、拒絶は口先だけにしか聞こえず、幸村は引き寄せられるように下着から顔を覗かせている薄桃色の先端に口付けてみた。

「や、だ、だめっ!流石にまだ早っ、いぁああっ!」

軽く口付けた刹那、もっと佐助を味わいたいと本能の赴くままに、幸村は口を大きく開けて亀頭から括れまでを口内に含んでみる。

「や、あ…あ、だ、ダメ、はな…せっ…てばぁ…」

初めての熱い粘膜の刺激に、先走りが一気に滲み出す。
幸村は剥きたての果実を頬張るように舌で啜ると、佐助はスカートの下にある幸村の頭を掴んで力づくで引き剥がす。

「んんっ、や、吸わな…っ、いぁっ!」

頬を窄め吸い付いていた幸村が、名残惜しくも口内から陰茎を引き抜かれた時、佐助は堪えきれずに大量の白濁を幸村の顔面に撒き散らしてしまった。

「やだっ、ご、ごめんね旦那ぁ。」

スカートから漸く顔を出した幸村の顔面にはベッタリと白濁にまみれ、半開きの唇にまで滴り落ちていた。

「え、と…とりあえずこれで拭い…って、舐めちゃ駄目っ!」

手元に拭くものがなかった佐助が、自分のスカートで拭おうとするより早く幸村は白濁を指で拭い口に含んでいた。

「何故だ?どの道舐めとるつもりだったのだから良かろう?」

「嘘だろぉ……俺達まだキスすらしてないのに、飛ばし過ぎだよ!」

「な、そ、そう言えば…そうであったな。」

相変わらず大胆な行動の割に気持ちは初々しいままな幸村は、顔を紅潮させながら佐助の両肩を掴んで自分の方へ引き寄せる。

「ちょ、いくら何でも自分のは舐めたくないから…顔洗ってきてよ。」

「そうか?俺には何やら甘くすら感ずるがな。」

冗談ではなく至極真面目に答える幸村に、人は惚れてしまうと痘痕も靨なんだと実感した。

「俺様も…旦那のだったら甘いのかな?」



  





「おはよーございまーす☆」

その後、佐助こと天狐は相変わらず店に顔を出していた。

「よぉ猿、昨夜やり過ぎだろ?腰が引けてんぞ?」

「やだなぁ、竜の旦那と一緒にしないでよ。」

ふんわりとしたツインテールに狐の尻尾を揺らしながら、政宗の野次をサラリと交わした天狐が休憩に入ると、タイミング良く遅番の慶次が顔を出した。

「おっはよー天狐ちゃん♪今日も可愛いねぇ☆」

「おはよー。慶ちゃんも相変わらず可愛いよ☆」

すっかり妹?分としてのポジションを確立した慶次は、天狐を背後から抱き締めてじゃれついても許されるまでになっていた。

「ねぇねぇ、昨日もゆっきーとイチャイチャしてきたでしょ?」

「な、何で?まさか旦那ってば慶ちゃんにチクってるとか?」

「言わなくてもゆっきーは顔に出てるからすぐ分かるよぉ〜。毎日こーんな感じでデレデレしてるし。」

そう言って思いきり鼻の下を伸ばしてみせる慶次に、佐助は照れ隠しのヘッドロックをお見舞いする。

「旦那はそんな顔してもおっとこ前だからいいの!!…けどさ、バレバレなのはちょっとなぁ〜。」

「て、天狐ちゃ…ギブ、墜ち……る」

慶次は頸動脈をロックされ危うく墜ちる寸前、政宗が天狐の尻目掛けて軽く蹴りを入れて事なきを得た。

「いったぁ〜!尻尾がなかったら大惨事なんだけど?」

「んなに酷使してるんだったら、ちゃんとガードしな?」

「あー、危うく墜ちるトコだった。」

「ごめんね慶ちゃん。大丈夫?」

「あー、平気平気。」

「ったく、あのまま寿退社させておいた方が良かったかもな。」

「え〜ちょっとぉ、随分酷い言われ様じゃない?」

「お前もそう思わないか?」
「ん〜、No.1にはなり損ねたけど、俺はまだまだ天狐ちゃんと一緒に働きたいから。」

「も〜、そんな事言ってくれるの慶ちゃんだけだよぉ!」

感激した天狐から、友情のハグとほっぺへのチューをお見舞いされ、内心浮かれながら受け入れる。
そんなやり取りも日常になりつつあるが、佐助を送り出した日を思い出すと政宗は苦々しい顔をする。

「俺はアノ駄犬の勢いからしたら、お前に店辞めさせて束縛するかと思ってたけどな。」

「んー、俺様も正体バラした時に覚悟してたんだよね。」

だが、想いを通じ合わせた幸村から出たのは、意外な言葉だった。




『あの様な格好で給仕をするなど不埒ではあるが…男が一度引き受けた仕事を俺の我が儘で投げ出すような真似はさせられまい。』

『本当に?や、旦那が嫌なら直ぐには無理だけど……』

今すぐ辞めるとは言い出せない自分に、佐助自身驚きを隠せずにいた。

『……佐助は、あの仕事に誇りを持っておるか?』

最初は自分の隠れた願望を満たす為だった。
それでも、自分が演じる『天狐』を求めて客が集まり、それに応えようと日々奮闘して来た。

だから、今なら幸村にハッキリと言える。

『俺様が作り上げた『天狐』を必要とされている自信と誇りはあるよ。でも……素の俺は、旦那だけのものだから。』

『そうか、それならば……いや、しかし良からぬ輩の毒牙にかかりはしないか?』

まさか襲われかけた事があるとは言えなかった佐助に、幸村は名案があると切り出してきた。






「なーにが名案だっての。」

「とか言って受け入れてくれちゃうのが優しいよね、竜の旦那。」

「そりゃ、見た目は文句なしだろ?腕っぷしに自信があるなら自分の身守りつつ用心棒にもなりそうだからな。」

チラリと店舗に続く扉に目をやると、馬鹿でかく勇ましい声が聞こえて来る。

「つか、お前の駄犬なんだからちゃんと躾ろっ!」

「わぁ、懐かしいなぁ。俺もよく天狐ちゃんに躾られたもんね?」

着替え終えた慶次が、懐かしそうにしながら天狐に再びハグをする。

「そんじゃ、悪いけど新入りと交代してきてくれる?」

「あれ?お客様の前で躾しないの?」

「んー、まだ加減が出来ないからお客様には見せられないかな?」

「Ha!早く躾て客に最高のshowtimeを見せてやんな?」

政宗の言葉に了解、と応えた佐助はすぐに『天狐』モードに切り替える。

「はいはーい、みんなの小夢ちゃんの出番だよっ、てね。」

「け、けい…小夢殿…」

慶次が顔を出すと、すぐ様縋るような目で助けを求めている新入りに交代を言い渡す。

「それじゃ、向こうでちゃーんと躾て貰うんだよ?虎若子ちゃん。」


期待の?新入り虎若子は、長い虎の尻尾を揺らしながら愛おしい人の待つ控え室へと一目散に駆け出していった。
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