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□絶対領域
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「そ、そう?やだなー電車か学校で隣に居た子の移り香じゃない?」
昨夜だってメイクは店でしっかり落としたし、風呂にも入った。
一体幸村は何を嗅ぎ取ったのか?
「また…か、彼女でも出来たのか?」
「え?」
「最近バイトだけにしては妙に忙しそうにしておったし…。」
そのバイトだけで本当に手一杯だったのだが、どうやら幸村は自分には時間を割けずに残り香の彼女に割いているのだと言いたいのだろう。
「バイトが忙しかったのは嘘じゃないよ。」
「そ、そうなのか?」
「でも…」
「でも?」
「彼女がどうこうってのは、俺様だってもう大人だし、その辺は…ね?」
これ以上追求されてぼろが出ないよう、幸村の誤解に乗り、言葉を濁してうやむやにすると、幸村の表情はみるみる強張っていく。
「すまなんだ。俺はまだ子供故察する事が出来なかったな。」
「いや、旦那が気にする事ないからさ。ほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」
「うむ…。」
それから黙々と残りのオムライスを口に運ぶ幸村は、先程までの満面の笑みが消えていた。
「御馳走様でした。」
「ん、ねぇ旦那…」
「すまぬ、用事を思い出したので今日は帰る。」
「そ、そう?それじゃまたね。」
「ああ。」
幸村のあからさまな嘘も分かっていたが、今はこの気まずい空気から解放されたくてそのまま見送ってしまった。
『そりゃ嫉妬だな。』
明日の遅番を急遽早番にシフト変更してくれと連絡してきた政宗を捕まえ、幸村とのやりとりを話してみた。
『そっか、隣の憧れてるお兄ちゃんが自分よりも女の子を優先してるって思ったら妬いちゃうのかな?』
『いや…そんな生易しいんじゃないと見たな。』
『へ?』
『この前学祭で見ただけだが…あいつ、cuteな顔つきの割に内に獣飼ってるクチだ。』
『何でそんなの分かるのさ?』
『少なからずも修羅場潜って来た俺の勘だ。』
『はは、そりゃ試合ん時は「虎の若子」とか「紅蓮の鬼」とか呼ばれてっけど、普段は一途で熱くて優しい子だよ。』
『ま、お前の前だとネコ何重にも被ってるのかもな?』
『そっかなぁ?』
『精々背後捕られないように気を付けるんだな。あ、お前的には襲われた方が本望か。』
『だーかーらー!旦那とはそんなんじゃないのっ!』
『へいへい、じゃあ明日は頼んだぞ。』
『りょーかい。』
政宗との通話が切れ、暫く考える。
旦那は…そんなんじゃないよな。
彼女がいないのだって、ただ単に初心で部活に精一杯だからだし…。
でも…
自分の手首を掴んで匂いを嗅いでいる幸村は、どこか獣じみていて雄の色香が滲み出ていた。
「旦那が…もし、もしだよ?万が一襲ってきたら…拒めるかな?」
嗅がれた手首を自分で嗅ぎつつ、反対の手はおずおずと下肢へと伸びていった。