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□絶対領域
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「まっさかあの電話の後に店が開店1ヶ月ないなんて思わなかったよ。」

つい数ヶ月前を振り返り、佐助は苦笑いを浮かべながら厨房で佐助の作った新作のオムライスを頬張る政宗にわざとらしく拗ねた口調で話した。

「下地は用意しといただろ?」

「コンセプト以外は手付かずだったけどね。」

政宗からの電話に出て、指定された場所はマニアの聖地である電気街。

今まであまり縁のなかった街に降り立った佐助は、携帯のナビを頼りに入り組んだ裏道の小規模なビルの乱立した一角へと向かった。


そこは以前閉店したメイドカフェを丸ごと借りあげ、テーブルや厨房周りはそのまま使い回しが利く店舗だった。

「ここを持て余してる方のお前が息しやすい場所にすりゃいいだろ?」

切羽詰まっていたあの時の佐助にとって、政宗は命の恩人と言っても過言ではない。

だから学祭での貸しを返すという名目で衣装や店舗の内装デザインにバイト採用など運営に近い仕事まで任され、身体はしんどかったが今までにない充実感があった。

「開店から三カ月は死ぬかと思ったけどね。ま、お陰で余計な悩みなんて考える余裕なくて良かったけど。」

学祭の後からハマった女装での自慰なんてしてる暇もなくなった。

それよりも店で客から羨望の眼差しで全身くまなく舐め回すように視られる方が何倍も興奮するようになり、今では客が望む萌仕草の研究に余念がない。

彼らはあくまでも店の中で泡沫の夢を楽しみに来るのだから、佐助は全身全霊をもって可愛くて萌萌な『天狐』を演じるのに専念していた。

「ほんと、エラい化けっぷりの狐ちゃんだ。」

「俺様はもっともっと化けるから、旦那は上手いこと使ってよ?」

「あぁ、言われるまでもなくコキ使うからな、覚悟しとけよ?」

「りょーかい。」

この店で働いていれば、自分の欲望をコントロール出来る。

佐助は今日も目一杯働きクタクタな身体と裏腹に、足取り軽く家路へと着いた。



**********


「佐助ぇ、美味いぞっ!」

先日店で新作として採用されたオムライスは、小十郎から分けてもらった新鮮な根菜を細かく刻んでたっぷり入れた炊き込み御飯にふんわりと半熟のオムレツを乗せ、シッカリと花鰹で出汁を取ったあんかけが全体を纏める自信作だ。

「良かったぁ、新作だから旦那の口に合うか心配だったんだけど。」

「佐助の作るもので口に合わぬものなどないっ!
全て美味いぞ?」

「へへ、あんがと。」

豪快に口いっぱいに頬張る幸村はまるでリスのようで、佐助は嬉しそうに食べる幸村の頭をグリグリ撫で回すと、ふいに幸村のスプーンを持つ手が止まった。

「あ、ごめん食事中に。食べにくかった?」

「いや…そうではなくな…。」

頭を撫でていた手首をグイッと掴み、幸村は自分の鼻先へと持って行くと何かを嗅ぎ取ったのか表情が険しくなる。

「ど、どうしたの?何か変な匂いでもする?」

「…甘ったるいおなごの化粧品のような匂いがするぞ。」

佐助は一気に全身の血が凍るような身震いを感じた。
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