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□絶対領域
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「んっ…く、…やぁ…っ!」

ニチャニチャと粘着質な水音と、唇を噛みしめても尚洩れてしまう甘い喘ぎ声が夜中の静寂もあり、部屋中に響く。


別に俺様は女の子になりたいなんて思ってないのに…何で鏡に映る自分に、こんなにまで興奮しちゃうんだろう。


左手を姿見につき、右手はスカートで隠れてはいるが忙しなく上下に動かされている。

頬を赤らめ、目許は潤み、唇は開いてだらしなく涎を垂らしながら、まるで初めての女の子にイタズラしているような後ろめたさが、更に興奮を呼ぶ。

下着が濡れてしまうので無意識に膝上まで下げたが、男物のボクサーパンツでもオーバーニーに包まれた脚に下着が絡んでいるのに又興奮してしまう。

「やだ…あぁっ…」

こんな格好をしたのも、辱めるように下肢を弄び淫らな醜態を晒すのも全部やっているはずなのに、佐助は未だかつてない快楽に戸惑いながらも身を委ねていた。

「んあ…っ、くっ…っ!」

ビュクビュクと手にした陰茎が脈打ち、掌で生暖かい精を受け止めるが、
全力疾走した後のように呼吸は乱れ、目尻に溜まった雫が頬を濡らす。

「うそ…だろぉ…?」

熱を吐き出したばかりにも関わらず、体の奥でくすぶる熱は冷めずにもっともっとと佐助に強請っていた。




******

「また……買っちゃった。」

届いた宅配便の箱を眺めながら、失望と高揚感が入り混じる溜め息をついた佐助は、玄関の鍵をしっかりと施錠し自室へと階段を駆け上った。


「うわ…可愛い。」

中から出てきたのはピンクに黒のレースがついた女性ものの下着で、お揃いのブラにショーツとガーターにベビードールのフルセット。
セクシーと言うよりは女性受けの良いポップなデザインで、逸る気持ちを抑えながら服の上から身頃にあててみた。

「ここまで着たらヤバいって…。」

あの日以来何度も繰り返した自問自答だったが、最後は欲望が勝ってしまう。


「良かった…ちゃんと収まってる。」


両脇がリボンで結ぶ仕様で面積の少ないショーツに自身の雄が収まるか些か心配だったが、不自然な膨らみが却っていやらしさを醸し出していた。

「こうやって女の子はサギ盛りしてんだ…」

AAAカップのブラは寄せて上げる肉もない人の為に脇から正面へと広範囲にかけてぶ厚いパットが内蔵されていた。

まっ平らな佐助の胸に装着すれば、三段のフリルも相乗効果で可愛らしい膨らみを持った胸元へと変貌する。

「我ながらしっろいなぁ…」

透き通るような白い肌が男である自分の肢体を少しだけ性を曖昧にしてくれる。


「もうちょっと肉付き良い方が俺様好みなんだけど…」

姿見に背を向けて振り返り己の尻をしげしげと眺めながら両手の平で優しく撫で回す。

四角くなく丸みはあるが、肉付きは薄い尻は張りがあり、自分で触れているはずなのに第三者が触れているような錯覚に陥ると益々興奮してしまう。

最初は佐助自身の理想の女子を自分に見いだし、雄の佐助が鏡の向こうに映る雌の自分に触れていた。

が、最近は雌よりの自分が物足りなさを感じ、第三者の雄に手荒く揉まれたり蹂躙されるのを想像するだけで身体の芯がゾクリと震える。


「や…だぁ…そこ、…かんじ…ちゃう…っ!」

甘く鼻にかかった喘ぎ声を上げ、早くも下着を先走りで濡らしながらブラの上から胸を揉みしだき、先走りを絡めた指で輪を作り陰茎の括れを強く扱く。


女装した自分をおかずに自慰をするのにハマってしまった佐助は、母親の名前を借りて夜な夜なネットで好みの服を買っていた。

今日は初めて下着に手を出したのだが、予想以上の痴態に自身の中にあった欲は更にエスカレートしていた。


「これ…はまだ…使えな…い…!んんっ!」

下着の入っていた通販の箱にはピンク色の液体が入った瓶と、パールが一列に並んだ棒状の物や小ぶりな栓のような物が顔を覗かせていた。

「でも…スッゴい良い、て書いてあったし…っ」

右手は陰茎を扱いたまま、おずおずと左手で箱に手を伸ばしたその時

「佐助ーっ!おらぬのか?」

ベランダ側の窓から聞き慣れた声が聞こえ、思わず身を竦める。

「さすけーっ!まだ寝ておるのか?」

昔からの習慣で、幸村は向かいの部屋の窓から佐助の部屋へと声をかけ、ベランダを乗り越えて遊びに来ていた。

流石に用心の為に窓の鍵とカーテンは閉めてはあるが、カーテンに隙間が開いてて覗かれでもしたらと思うと、その場から一歩も動けずに息を潜めて居留守を決め込んだ。

「うむ…出かけておるようだな。」

ようやく諦めた幸村が窓のサッシを閉める音を聞き、止めていた息を漸く吐き出した。

『もぉ〜旦那ってばタイミング悪過ぎだよぉ。』

安堵するのを見計らったように今度は携帯が着信音を響かせた。

『やばっ!』

幸村が着信音に気付いて戻ってきては元も子もない。

佐助は慌ててベッドに潜り込んで携帯に出る。

『よっ、あれからなかなか連絡しねーからわざわざ俺の方からかけてやったぞ。』

『なんだ、竜の旦那かぁ…』

『なんだじゃねぇだろ?そろそろ目覚めた癖が暴走して持て余してんじゃないか?』

『……あのさ、もしかして盗聴とかしてんの?』

『Ha!bingoだったか。』

『どうせお見通しだろ?もう、マジで怖いんだけどぉ。』

『…猿、お前はどうしたいんだ?』

『どれが本当の自分なのかわかんなくなってる…普通に戻りたいけど、こっちの自分を抑えられるか自信ない。』

『別にいいんじゃないか?』

『え?』

『人間なんて一面しかない奴なんざ少ないだろ?色んな自分がいて当たり前だ。』

『旦那ぁ…』

後ろめたさで押し潰されそうになっていた佐助は、政宗の一言で、一瞬にしてフワッと浮上し、安堵から涙腺が一気に崩壊した。

『癖を持て余すんじゃなくて受け入れろ。そして自分で征しなっ!』

『そんな事…出来るかな?』

『お前なら出来るんじゃないか?』


布団の中で嗚咽を聴かれぬように堪えながら、政宗から指定された店の住所を頭の中にメモした。
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