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□難攻不落
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「お館様は如何様だったか?」

「もー相変わらず。ありゃ魔王さんだって吹き飛ばす勢いだよ。」

「おおっ!そうか、俺もお会いしたかったのだが……。」

「たまにゃ政にも力入れないとね?随分とため込んでたでしょ?」

「うぅ…」

上田の城に戻った佐助は、待ち構えていた幸村の元へまずは報告に上がった。

まずは当たり障りのないお館様からの周辺諸国の動向等を報告する。

「そうか…家康殿に動きがあるのか。」

「一応ウチの忍も何人か送り込んで周辺張らしておいた方がいいと思うんだけど。」

「うむ、早急に頼んだぞ。」

「それと……これ、お館様から預かったんだ。」

いよいよ信玄より託された書状を幸村へ手渡す。

普段は多少疎い幸村ですら佐助の些か張りつめた空気を感じ取り、只事ならぬ内容であるのを察した。

「何が書かれているのか知っておるのだな。」

「まあね。とりあえず話は読んだ後でね。」

「わかった。」

何時もより慎重に書状を開き一字一句丁寧に目を通す。

黙って文を読み進めた幸村の表情は次第に青くなり、伽の話に差し掛かるであろう辺りから耳まで赤くし、『なっ!』とか『ふぐぁっ!』と声にならない悲鳴をあげている。

「さ、佐助ぇ…これは、そのっ…。」

しどろもどろな主を是以上不安を与えないよう、佐助はいつものように飄々とした振る舞いを見せる。

「良い機会だよ旦那ぁ。さっすがに旦那の年で正室がいないのはいくら功績をあげても世間的には半人前扱いされちまう。」

「そ、そういうものなのか…?」

「そうそう、お館様の文にも書いてあったでしょ?正室を娶らなくても、まずは女の子に慣れておかなきゃ。ね?」

「し、しかしだな…俺はまだまだ未熟故、女子にうつつを抜かすなどっ!」

「旦那、未熟さを言い訳にして自分の苦手なものを避けるのはどうかな?お館様もその辺見抜かれてわざわざ文を書かれたんだよ?」

「うう…しかし、だな、いきなり見ず知らずの女子とだなんて……大将首を捕るより成しがたい難題。」

心の底より尊敬する師・信玄からの苦言を蔑ろにする訳にもいかず、かと言って苦手な女子にいきなり触れられるかと迷いが生じているのが手に取るように伝わる佐助は、そんな幸村の迷いを攻め込み一気に畳みかける。

「じゃあ……見ず知らずの女子じゃなければ大丈夫って事?」

「い、いや…城の者とて普通に接するので一杯一杯で…」

「気心知れてて旦那も普通に接してる者なら…どうかな?」

「そんな者がこの上田におったか?」

「……旦那の目の前に、いるよ。」

「なっ!?」

ボムッと破裂音と同時に幸村の視界が煙幕で遮られる。

「ッゲフ、さ、佐助?」

白い煙幕の向こうに居たはずの橙の髪はそのままに、迷彩の忍装束は艶やかな朱色に変わっていた。


「これは一体…?」

煙がサーッと左右に蹴散らされ姿が鮮明になると、普段見慣れたはずの忍の見慣れぬ姿があった。
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