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□無垢な貴方が時に憎い
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「佐助は……おるか?」
「はいはい、ここに控えてますよ。」
草木も眠る丑三つ時、昼間の快活さの欠片も感じられないか弱き声で呼ばれた佐助は、天井裏よりひょっこりと顔を出した。
「それそろ厠も一人で行かれるようになりましょうね?弁丸様。」
佐助の主である弁丸は、もうじき数えで十二になろうと言うのに未だ夜中の厠は佐助を呼びつける。
「いや、厠では……ない」
「それじゃあどうしたんだよ……あれ、ちょいと顔が赤くない?」
障子越しの月明かりを頼りに弁丸の顔を覗きこんでみると、薄暗い中でも熱が伝わりそうな程頬は火照り、目尻にはうっすらと涙を浮かべていた。
「頭は痛くない?」
「ああ……」
「喉は?」
「大丈夫だ……」
「んー、風邪じゃないにしても診てもらった方がいいな。」
「よい……」
「いや、良くないって。具合が悪いなら我慢しないでちゃんと言ってくれよ。な?」
「本当か?」
「ああ、今一番辛いとこ教えて?」
「実はな……先程から此処が火照って腫れておるのだが…」
上掛けを捲り、弁丸が自分の寝間着の裾を割り開くと、下帯を窮屈そうに押し上げている陰茎を差していた。
「え……や、これは……そのっ……」
『そっか、弁丸様もそろそろ精通が始まる頃だっけ。』
幼く女子と見間違う程見目麗しい主も、いよいよ雄として目覚めるのかと感慨深くなる。
「今まで厠や湯で触れても異常はなかったのだが、最近不意にこの様に腫れる事があってな…」
「弁丸様は腫れた時、自分で触ったり何かした?」
「いや、触れずとも腫れ、暫くすれば自然と腫れは引いてたが、今宵に限っては何時まで経っても引かないのだ……」
「心配しなくても大丈夫。変な病とかじゃないから」
「そ、そうなのか?」
悲壮感で一杯な弁丸の顔は、佐助の言葉を聞くなり一瞬で花が綻ぶような笑顔に変わった。
「ああ、今夜はもう遅いから俺様が何とかするけど。」
「何とか出来るのか?」
「まあ、里で習っただけだから余り期待しないでくれよ?」
「うむ、頼んだぞ佐助!!」
主に頼まれてしまうのにめっぽう弱い佐助は、自慰すらした事のない主に賤しい忍風情が触れる後ろめたさに苛まれながらも、恐る恐る窮屈そうな下帯に手を伸ばした。
「これはさ、弁丸様が大人になる証なんだ。」
「大人に、だと?」
「そう、腫れているのは子種が作られているって合図さ。」
指で下帯をずらし、外気に触れてヒクヒクと切なそうに震える桃色の亀頭を、佐助は親指の腹で優しく撫でる。
「んんっ!!」
「どう?痛くない?」
「ん……いたく、は、ない…っ」
「なら大丈夫かな……」
まだカリの括れを皮が半分被っているのを軽く下に引っ張ると、刺激で先端から先走りの蜜がタラタラと溢れ出してきた。
「さ、すけ……ぇ、これは……?」
「お漏らしじゃないから安心しな。」
「では……膿か?」
己の意志に反して腫れ上がり、体内から滲み出る異物が子種だと教えても、弁丸はまだ出来物と勘違いしているらしい。
「んー、まあ遠からず近からずだけど……」
「痛っ!」
「あ、すまない。俺様の手じゃ痛かったか……」
普段より鍛錬を重ね、表皮が硬くなっている佐助の指先や掌では、まだ剥かれたばかりの亀頭には刺激より痛みが走った。
「これだと手淫は難しいか…………よし。」
「どうした佐助……膿を出すのは容易くないのか?」
「まあね……だから、ちょっとだけ言う事聞いてもらえないかな?」
「ああ、分かった。何でも聞くぞ!!」
「それじゃ、まずは両目をしっかり瞑って?」
「こ、こうか?」
弁丸は言われた通り眉間に皺を寄せながらギュッと瞼を瞑る。
「そう……良い子だ。これから弁丸様の膿を吸い出すから、俺様がいいよって言うまで目を開けない事。」
「す、吸い出す?」
「なあに、前に蛇に腕を咬まれた時毒を吸い出してやっただろ?あれと似た様なもんだよ。」
気を紛らわせば自然と萎えないかと期待したが、弁丸の一物はしっかりと芯を持ち天を向いていた。
「ん……っ、」
「んあっ!な、何だ…これは?」
急に先端を柔らかく滑りを帯びた感触に被われ、弁丸は甲高い声を上げてしまう。
「いいから、少し黙って我慢して……」
それきり佐助は喉奥まで一気に弁丸の一物を咥え、頬を窄ませて啜り立てる。
「あっ、ぐっ……ひぃ、あ……っ、さ、すけ…ぇ」
言いつけ通り閉ざした両目尻よりポロポロと生理的な涙が頬を伝う。
「ん……も、ちょい……」
まだ小振りだが、刺激に体積を増した弁丸の一物を早く解放すべく、舌を器用に使い亀頭やカリに刺激を与える。
「う、あ……、な、何か出そうだぞっ!」
「らいしょうふらから……し…て?」
口内に目一杯頬張り舌足らずな声で射精を促された弁丸は、呆気なく佐助の喉奥に飛沫を放った。
「ん…っ、んーーっ!!」
ネットリと濃い弁丸の子種をどうにか喉に流し込み、漸く柔くなった一物を口内より解放した。
「よし、もう目を開けても大丈夫」
「さ、さすけぇ……今のは一体…?」
言いつけを守った弁丸が目を開けると、すっかり腫れが引き見慣れた形へと戻った己の一物と、唇に着いた残滓を舌で舐めとる艶めかしい顔の佐助がいた。
「弁丸様が子作り出来る体になった証だよ。」
「こ、子作り?」
「ああ、詳しい事は然るべき人から習っておくれよ?」
「そうか……相分かった。夜分にすまなかったな」
「いいって。それより早く一人で厠に行けるようになっておくれよ?」
佐助は手早く弁丸の乱れた夜着の合わせを整えると、天井裏での警護に戻った。
数日後、父の遣いで初めて一人で甲斐に出向いていた弁丸は、上田に戻るなり興奮冷め切らぬ様子で佐助を呼び出した。
「どうしたの、弁丸様?」
「うむ、お館様にお会いした折にな、色々話を頂戴した。」
「へぇ、どんなの?」
「先日佐助に治めてもらった腫れの件をお館様にお尋ねした。」
「はぁ?ちょ、それ……マジで?」
緊急事態で主より頼まれたとは言え、穢れた一介の草が主に触れるなど……本来なら打ち首でも仕方ない。
「何か不味かったか?」
「まずいも何も…………」
「佐助の申しておった通り、あれは大人の男になる兆しなのだと申されていた。」
普段は侍女が側に来るだけでも恥じらう初な弁丸だが、性の兆しはすんなりと受け止めている様子だ。
「それで、然るべき人に手解き受けさせるとか話は出たの?」
「おお!よく分かったな。」
「そりゃそうだろ?何も知らないままで嫁いで来た姫君を相手には出来ないだろ?」
ゆくゆくは訪れるであろう嫁取りに向け、今から女人の扱いを知っておくのも務めの内。
それが弁丸の為と分かってはいるが、清らかなものが穢れてしまう一抹の寂しさを佐助はほんの少しだけ感じていた。
「そうだな。それではこれからは頼んだぞ、佐助。」
「…………………………はい?」
「お前なら一通り教えられるであろうとお館様も太鼓判を押しておったぞ?」
「…………え、と……それは、俺がお相手を探して来るとか……?」
「何?お前では出来ぬのか?俺は、佐助が良いのだが………」
何も疑わない澄んだ瞳を向けられると、胸は早鐘を打つ様に脈打ち、佐助の意志に反して口は是を唱える。
「おれ…さまで良ければ………」
「そうか!では共に励もうぞ!」
習うべき行為が破廉恥な意味も含むのだとは気付いていない無垢な主に、自分が手解きをするのかと思うと、絶望の痛みと甘い疼きが佐助の中を交錯していった。